《安らかな瞳》#19 2026/03/15
※『ぼっち・ざ・ろっく!』二次創作
「どうした、喜多」
「ううん、何でもないの」
「そう?おどおどした目のアイツの事考えてたんじゃないの」
そんなんじゃないったら、したり顔のさっつーにアカンベーってしながら、そう誤魔化した。
私、そんなに顔に出やすかったかしら。
実際のところ、ひとりちゃんの瞳は。
泳いでいるか、眠そうにしてるか、何かをやらかしたかのように淀んでいるか、学校だとそんな感じ。
一緒にバンドを始めてギターを教えて貰うようになってから暫く経つけど、滅多に目が合わないし、たまに目を合わせると眩しそうに逸らされる。
でも、時に真剣で、力強くて、私の心臓をギュッと掴む。
高一の秋、文化祭二日目、体育館ステージ袖。
リョウ先輩にお願いして、伊地知先輩にも付き合って貰って、いつも以上に練習して、リハーサルも完璧だった。
それでも私は、緊張していた。満員に思える体育館のフロアを見て、あのファーストライブの時とは違う身体の震えが私を襲う。
深呼吸して、発声練習して、誰かがかけてくれている声もどこか遠くて、心が闇に囚われたような、そんな感覚。
そんな時、暗闇の中、青い星が放つ眩しい輝きが目に飛び込んで来た。
ひとりちゃんの、あの澄んだ青空のような瞳。
どこか遠くを見つめている、その瞳を見つめているうちに、私の身体の震えは収まって、気持ちが穏やかになっていく。
「あ、あの、喜多さん、どうかしましたか?」
「ううん、何でもないの」
そう、何でもない。
でも、気が付けた事が一つ。
私、あなたのその瞳が、大好きなんだ。
《平穏な日常》#18 2026/03/11
今日は快晴。この時期に降った昨日の雪が嘘みたいだ。
通学途中にある、桜の木を見上げる。つぼみはまだ、それ程膨らんではいない。
3年生が去った校舎は、普段より静かだった。期末試験も終わってて、少し怠い。来年は受験で大変だけど、この瞬間は考えることを許して欲しかった。
午後の授業。英語の発音が流暢な帰国子女の先生が、手を止めて、ハッキリとした日本語でこう告げた。
「黙祷」
目をつぶる。私は直接被災した訳ではないけれども、命を繋いでくれた、多くの人のことを想った。
学校帰りは、仲良しな詠子と寄り道して、マックでソフトクリームを舐める。一緒の高校へ行こう、そう約束してる子だ。二人とも合格したら、気持ちを打ち明けるんだ。そう、決めている。
夜、家族との食事。家族でもう一度、黙祷。
普段は観ない、リビングのテレビを見つめる。今日は、勉強しなさい、とは言われなかった。
お風呂に入り、いつもの時間にベッドの中へ。
おやすみなさい。
そして、明日の朝を、何の心配もなく、好きな人達皆で迎えられることに、感謝します。
(加筆済み)
《月夜》#17 2026/03/08
「月夜の晩ばかりとは限らないから、気をつけてね」
「なんです?その意味深なの?」
「別に〜」
そう言い残して、先に歯磨きを終えた先輩は、給湯室から職場へと戻っていった。
見目は麗しいし、仕事も出来る人なんだけど、たまに言動が謎なんだよな…。でも、それも相まってか、男女問わず人気は高い。
そのわりには、浮いた噂一つ聞かないのよね。
そんなことを思いながらの帰り道。いつも通る、この陸橋の下のトンネルを抜ければ、もうすぐ我が家だ。まあ、慎ましいアパートの一室だけど。
そのトンネルに足を踏み入れた瞬間、交換が忘れ去られているような天井の蛍光灯が、不意に消えた。
唐突に視界が闇に包まれる。
『嘘でしょ』
真夜中でさえ明かりが支配するこの現代で、野外での突然の漆黒に、私は動揺を隠せなかった。
月夜の晩。
気になって、意味は調べてみた。
いやいや、まさかそんな。
それに、トンネルの先が全く見えない訳では無いし、あと、ほんの数分歩くだけで抜けられる。
でも、今日に限って誰も通り掛からない、この疑似的な無人の空間に、脚が、すくんだ。
その時、誰かに右手を取られた。
心臓が跳ねる。
え、いつの間に近づかれた?ってか、痴漢?
「大丈夫、行きましょ」
隣から、聞き覚えのある気がする女性の声。
え、でも、まさか。
「ほら、歩かないと、もっと怖いのが来るかも」
その女性の足音が、私の前に出た。
待って、置いていかないで。
その時、取られた右手がきゅっと握られた。
見えなくても分かる。これ、恋人繋ぎ。
そう認識した瞬間、すくんでいた私の脚が、一歩踏み出して。
その後は、あっという間だった。それはそうだろう。ほんの数十メートルのトンネルなのだ。
なのに、何キロも歩かされたような疲労を覚え、私はその場でへたり込んだ。
「良い夜ね」
声に促されて空を見上げると、やけに大きく見える満月と、それを背負った立ち姿の先輩。なにこれ、映画みたい。
「あの、どうして」
ここに?そう言おうとした私を、ひざまずくようにして抱き締めた先輩は、耳元で囁いた。
「さあ、なぜかしらね?」
先輩の声が耳朶を甘くなぞり、私はゾクッとして何かを感じた…これは…なに?
「さ、立てる?」
先輩がそう促すと、私はコクコクと頷きながら立ち上がった。
「じゃあね、私はここで」
先輩はそう言って、立ち去ろうとした。
え、待って。
こういう時って、何か、こう、あるものな気がする。
気がついたら、今度は私から先輩の手を取っていて。
「あら、これはなに?」
なに?って…分からない、分からないけど。
「言いたいことがあるのなら、どうぞ」
悪戯めいた表情をした、先輩の顔は直視出来なかった。
「もう少しだけ、一緒に、居てください」
絞り出すような声で、そう、懇願した。してしまった。
今宵の闇に、一人では立ち向かえなそうだから。
ある、月夜の晩に、心が絡め取られた私の話。
《大好きな君へ》#16 2026/03/04
大好きな、というか、大好きだった君へ。
その後、いかがお過ごしでしょうか。幸せに暮らしていますか?
思えば、お互い、人生の遠回りをしてしまいましたね。
あんな形でのお別れをしてしまったことは…本意ではありませんでしたけど。
それでも、今はこうして心の平穏を取り戻せたことは、良かったのかもしれません。
もう、二度と会うことは無いと思います。
光も、闇も、すべて一緒くたに背負って生きていきます。
それでは、さようなら。せめて、お元気で。
※お知らせ。機種変した際にデータ移行失敗しまして…改めて、宜しくお願いします。発表した分は、余裕があれば同人誌にまとめたいな…と、思ってたり。