双子座β星・ポルックス
馭者座α星・カペラ
私の愛しい 未完の金剛石 永年の星
どうか季節の移ろいで往かないで
それは寒空に浮かぶことは無く
寂しがり屋な惑星の横に位置する
慈愛で汪溢した星々
待てども訪れぬ愛に焦がれ
眼前の愛が濁る未来に怯えた末
研ぎ澄ました身を脱ぎ捨て
終に訪れようとした貴方
私の生をも噛み砕いて
共に連れ断つ事も出来たでしょうに
今もまだ私の愛を隣に据え 疼痛を忍んでいる
死に掠る晦日の夜を越える時
生を選んだあの夜明けのように
胸の中 痛みに蕩けた貴方の顏に
しとりと濡れたヘーゼルが瞬く
私の幸繭で包みましょう 尻尾も忘れずにね
そして揺籃の中では安らかな眠りを
おはようのキスは その瞳に
貴方の羊膜が溶けて 嗚咽を漏らすとき
私はその大きな躰を包み込んで
生身の貴方を受け容れます
貴方が鼻を鳴らして眠るとき
私は腿を枕に 手は髪を梳く春風にして
貴方の休息をあやします
貴方が三途川を渡る時
私は死装束に身を委ねて
アーモンド・ムスクに沈みます
病める時も 健やかなる時も
死をも分かたぬ不分離の愛で
晴れ渡る空に 溢れて零るる祝雨を
鋭い体躯に隠された、柔くて幼い心。
仁愛と怯えで発露する涙の味。
底に潜り込むように、じいと見つめる眼の湿度。
感情 心拍 体温 瞬きの数 歯の治療痕
嘘の回数 血の色 ピアスホールの風通り
ふと、貴方を口に含みたくなる。
星屑の散る鼻根に がぶり と歯を立てて
なあにと蕩けた声で眩しそうにする貴方を
もっと 余す所なく 知り尽くしたい 。
朝、また起きてしまったと後悔しながら貴方の甘ったるいアーモンドの香りを探す。
昼、遠くから響く校内放送に鼓膜を擽られながらまろく垂れ下がった眉尻を撫でる。
夜、明かりを消した四畳半の箱の中で愛しい顔に広がるそばかすの星を眺めながら意識を落とす。
生きていることを後悔しながら、死んでいないことに安心しながら。
貴方の隣を陣取って、生を喰む。