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1/9/2026, 5:32:00 PM

元始、女性は実に太陽であった。真性の人であった。今、女性は月である。他によって生き、他の光によって輝く、病人のような蒼白い顔の月である。

深い眠りから目覚め、時計を確認すると、14時を過ぎていた。
高校1年生の冬休み、それは、自由に過ごせる至福の時。外に出ることも誰かと会話することもなく、自分のやりたいことを好きなだけする。やりたいことと言えどできることは限られており、ショート動画を見続け、飽きてきたら読書をし、またショート動画を見て…これの繰り返しである。

いつもと同じように過ごしていると、気づくと27時になっていた。この時間になると情報をインプットするのが疲れてくるため、自分の思想を展開させていく。
この時、世界が空白となり、孤立する。惑星も何も無い宇宙を彷徨っているような感覚で、不意に自分の行いを振り返る。他人が生産している動画あるいは文章を目に通すことで毎日を過ごすことができている、つまり私は他によって生かされている。
そんなことを考えていると、時刻は29時。顔をあげるとカーテンの隙間から電灯の光がほんの少しだけ私を照らしていた。暗闇に浮かぶ私の一部を少しだけ。
カーテンを開けると、とおくとおくとおく離れた空に三日月が浮かんでいた。
誰にも見られることのない時間に顔を現す三日月。貴方は何時まで美しくいられるの?

1/8/2026, 3:08:42 PM

私は毎日、所謂平凡な日常を送っている。決まった時刻に起き、決まった朝食をとり、決まった服を着て、決まった時間に出勤する。そこに感情の起伏は一切感じられない。


「うちの子、全く勉強しなくて。どうしたらいいんですかね、先生」
「高校生になったばかりで、多感な時期ですからねぇ。本人なりに考えていることもあるかもしれません。今はじっと我慢して見守ってあげるのも良い判断だと思いますよ」
「そういうもんなんですかねぇ…ほんとうちの子このままで大丈夫なのかしら。すみませんねわざわざ面談なんてしていただいて」
「いえいえ、大切なお子様の将来のためですから」
「ほんと、ありがとうございました」
今日このテンプレを何回使用しただろうか。本当に『すみません』と思っているなら、面談に来るのを控えていただきたい。琴線に触れないよう細心の注意を払いつつ会話をするのはかなり疲れる。おそらくホストもこんな感じなのだろう。
机の上に置かれた生徒の成績一覧をボーッと見つめていると、チャイムが鳴った。どうやらさっきのが最後の面談だったらしい。重い腰を上げて職員室へと戻った。

「あ、湊斗くんおかえり!どうだった面談」
向かいの席に座る文乃先生が話しかけてきた。
「良い刺激になりました。流石に疲れましたけどね」
「そう、大変だったね。今日くらいは定時に上がったら? たまには家でゆっくりすることも大事よ」
「それもそうですね。ちょうど仕事が溜まっていないので、今日は上がらせていただきます。お疲れ様です」
「お疲れ様です」
特に家に帰ってもすることはないが、学校にいたら余計疲れてしまうため帰ることにした。机の上に散乱しているラインマーカーをバッグに突っ込み、足早に職員室を出た。
帰宅途中、家に何も食べるものがないことに気が付き、コンビニに寄った。食へのこだわりは特にないためサラダチキンとおにぎりだけを買うことにした。支払いのためにバッグの中から携帯を取り出そうとするが、ラインマーカーが邪魔で中々取り出せない。レジの順番が来たところでやっと黒い携帯を取り出せた。

家に着くと少し疲れが取れた気がする。決まった場所に荷物を置き、夕食の準備をした。
食卓に並ぶモノはあまりにも簡素であった。食品どころか食器まで簡素で色がついていない。ふと顔を上げて周囲を見渡すと、部屋の物すべてに色はついておらず、唯一色があるのは適当に置かれたバッグからはみ出るラインマーカーだけであった。

『酒、タバコ、金、愛、食、性』私はどれにも興味がなく、モノクロの世界で生きている。ラインマーカーでさえ、あそこまで色とりどりなのに。
「…はっはっは……あっはっはっはっは!!」
もはや生きる意味さえをも見失っている自分を俯瞰してみると、あまりにも滑稽で涙が出るほど笑った。

冷蔵庫の中に入っていた缶チューハイを抱えて、屋上へ駆け上がった。
柵に身を預け、何度も吐きそうになりながら酒を飲んで飲んで飲みまくった。そこで初めて世界に光が宿った。社会はネオンに包まれ音に溢れていた。
色とりどりな現実に夢中になっていた私は、柵が外れかけていることに気が付かず、そのまま全体重をかけた。
胸ポケットには、シュレッダーをかけ忘れていた生徒の成績一覧が入っていた。

1/7/2026, 6:19:37 PM

「可愛らしい女の子たちですよ。よく頑張りましたね」

真っ白な肌、大きな目、綺麗な鼻筋。この世とアンバランスな美貌を持ち合わせた女の子の双子であった。
この子達の父親はわからない。あの不細工なおっさんだと可哀想だな、とどこか他人事のように思っていたが、ここまでの美しさならあのモデルの方かもしれない。
19で夜逃げの如く上京し、色んな男の家を巡り巡ってヒモとして生きてきたが、まさか自分が子供を産むとは夢にも思っていなかった。妊娠が発覚したのは6ヶ月。中絶しようにもできず、やむを得ず出産の決意を固められた。
産まれたての人間は愛おしさ故に可愛らしく見えるが、実際にフィルターを介さずに見ると全くである、と聞いていたが、案外綺麗な顔をしていた。これが母性本能というやつなのか。
「かなり上手に産みましたね。3日後には退院できると思いますよ」
明日にでも退院させて欲しいと言ったら怒られるだろうか。とにかくここの空間から逃げ出したい、その一心であった。

退院後、赤ん坊と共にアクセサリー店へ行った。
「お前ガキ産んだのか? しかも双子じゃねぇか。どれ、面見してみろ。」
入店するや否やトウマが無駄にデカイ声で話しかけてきた。
「デケぇ声出すんじゃねぇ馬鹿が。産後の女を労ることはできないわけ?」
「わりぃわりぃ、ホントにお前が産んだんだな。にしてはキレイな顔してんじゃねぇか。誰の子?」
「多分ちょうど1年前ナンパされたあのモデル、わかんないけど」
「あーあのクソガキかよ。確かに顔だけは良かったな、顔だけは。で、産後早々何の用だよ?」
「ああ、このガキ達のためにネックレス作ってくれない?」
「ん、いいぜ。どんなデザイン?」
「『冬愛』と『冬羽』って掘って。あとは任せる」
「お、名前か? 良い名前つけて貰ってんなおめぇら! ちょっと待ってろすぐ作る」
そう言って、奥の部屋へと行った。
冬に産まれた双子だからという理由で名付けた。安直すぎたかもしれないが、個人的にはかなり良い名前だと思う。
しばらくするとトウマが戻ってきて、両手に小さいネックレスを持っていた。
「ん、できたぞ。ガキ用に小さめで、タグにそれぞれ名前彫ってある」
本当にトウマが彫ったのか疑うほど上出来であった。
「ありがと、サイズもピッタリ」
「あたりめぇだろ俺が作ってんだから。出産祝いってことでお代はいらねぇよ。じゃあ俺ちょっと急ぎの用事あるからじゃあな」
一方的に会話を終わらし嵐のように去っていった。私も行かなければならないところがあるため、足早に店を出た。

15分ほど歩くと目的地が見えてきた。赤ん坊達は何も知らず呑気に可愛らしい顔で寝ている。
ある建物の前で立ち止まった。1度赤ん坊たちを地面に置き、ダンボールを用意した。その中にそっと赤ん坊達と毛布をいれ、一歩後退した。日が落ちてくるにつれ、気温が低くなっているのが分かる。早く暖まりたかったため、赤ん坊を置いたまま足早にその場を離れた。あそこならきっと保護してくれるはず。そう思い顔をあげると、雪が降り始めていた。あの双子の肌のように真っ白で美しい雪だった。