人がまばらな教室
廊下からする楽しげな笑い声
机の上に広げられたノートと数学の問題集
手に握っているシャープペンシル
窓の外を見る
今の気分に似つかない程の快晴
それが逆に哀愁をそそる
寝る前に家族全員の顔を見る。
明日にはこの日常が変わってしまうかもしれないから。
理想郷はこの手の中に
あれから長い月日が流れましたね。
僕はあの日貴方が言った事を今でも覚えています。
『どんだけ年をとっても俺はお前がお前だってきっと分かるぜ。』
あの狭い、檻の中に居た十年間。
僕は自分の本当の能力をやっと見つけました。
あの時までに見つかっていたならばこの状況も変わっていた。
そうは思いますが、貴方が本当に望んだ展開だったのならそれで良いと思います。
『超能力』というのは奇妙なものです。
何も無い空間から何かを発生させる、
常人離れした、人間離れした力。
貴方の場合は、他の、人間を超越した存在、『ドラゴン』に
姿を変えることが出来る。
姿が変わっても、僕は貴方が貴方である事が分かります。
──
あの森
僕達だけが知る秘境に貴方は居た。
僕には分かります。
美しい碧眼。
藁のような柔かな色の身体。
失われた左腕。
温もりは当に消え失せている。
掟を破り、人の姿で居られなくなった貴方は
この場所で自らの首を打ち、命を絶った。
『生きたい』と言った貴方がどうしてこんな事をしたか理解が出来ません。
今の僕ならば出来るかもしれない。
あの瞬間の、笑顔が絶えなかった貴方を、
再び蘇らせる事が出来るかもしれない。
姿形が変わっても関係ありません。
貴方は貴方です。
だから、僕の隣で笑って欲しい。
今度は何にも縛られる事無く、生きられる。
貴方が望むのなら、僕はどんな物だって犠牲に出来る。
─この命さえも。
少女は言う。
「私、ずっとひとりぼっちだったの。」
少年は無言のまま手を差し出す。
少女は笑う。
「貴方、内気なのね。なのに、私を殺したいのね。」
少年の手を取る。
白いレースのドレスが風になびく。
「私と、踊ってくれる?」
少年は少女の腰に手を添える。
「素敵。男の子と踊れるなんて夢みたい。」
互いに手を握り合う。
瞬間、惨たらしい空間が大掛かりな舞台に変わる。
少女は目を細める。
少年は相も変わらず無表情だ。
「私たちだけの舞台。最期の舞台。」
月の光が二人を照らす。
アンコールを求める観客のように一層眩く照らす。
靴の音だけが響く。
やがて、音は止む。
少女は言う。
「ありがとう。とても楽しかったわ。」
少年はナイフを自身の首に当てる。
少女は小さく悲鳴を上げる。
「僕の両親を、親戚を、友達を殺した君を許せない。
もっと許せないのは、君が僕の心を掴んで離さないことだ。」
鮮やかな、赤々とした血液が噴き出す。
少年の衣服を紅く染める。
少女の頬を紅く染める。
月の光が二人を照らす。
惨劇から目を背けるな、と言うように一層眩く照らす。