たかだ

Open App

少女は言う。
「私、ずっとひとりぼっちだったの。」
少年は無言のまま手を差し出す。
少女は笑う。
「貴方、内気なのね。なのに、私を殺したいのね。」
少年の手を取る。
白いレースのドレスが風になびく。
「私と、踊ってくれる?」

少年は少女の腰に手を添える。
「素敵。男の子と踊れるなんて夢みたい。」
互いに手を握り合う。

瞬間、惨たらしい空間が大掛かりな舞台に変わる。
少女は目を細める。
少年は相も変わらず無表情だ。
「私たちだけの舞台。最期の舞台。」

月の光が二人を照らす。
アンコールを求める観客のように一層眩く照らす。
靴の音だけが響く。

やがて、音は止む。

少女は言う。
「ありがとう。とても楽しかったわ。」
少年はナイフを自身の首に当てる。
少女は小さく悲鳴を上げる。

「僕の両親を、親戚を、友達を殺した君を許せない。
もっと許せないのは、君が僕の心を掴んで離さないことだ。」
鮮やかな、赤々とした血液が噴き出す。
少年の衣服を紅く染める。
少女の頬を紅く染める。
月の光が二人を照らす。
惨劇から目を背けるな、と言うように一層眩く照らす。

10/4/2022, 10:36:02 AM