鏡を見れば、いつもの自分がいる。しかし、指を重ね、瞳を合わせて
「あなたはだあれ」
と問いかけると、何故か別人が向こうにいる様に感じる。いつもの自分とは。自分が自分であると証明するのは、自分が自分でないと証明することより、遥かに難しい。
そうは思わないかい、キミ。
そう、そこのキミ。不思議そうな顔を浮かべているね。いや、興味深いものを見るような顔かな。
キミは私で、僕はキミ。
なんだかおかしい?そんなひどいや。俺はオレだよ。キミはひどい顔をしているね。どうしたんだい。話を聞かせてよ。無言じゃ何もわからないよ。そんなにアタシに話したくないのかい。悲しいなあ。
ところで、キミの名前は?
今日も鏡に映る誰かに話す。
2024/08/19 #鏡
いつまでも臆病だから、捨てられない。捨てる強さがない。
昔から情が沸いて、断捨離が苦手だった。そんな自分が大嫌いだった。大丈夫。何も変わらないんだ。ただのゴミ屑一つが無くなって、綺麗になるだけ。
ほらゴミ屑を花壇にシュート。
自分の命を投げ捨てる。これでようやく全て終わった。
いつまでも臆病は捨てられないけど。
2024/08/20 #いつまでも捨てられないもの
「お前が殺したんだ!勇者様を!」
魔王討伐後、勇者一行が王都へ戻って来た。
数日後。魔王討伐を祝っての祭りをする際に、肝心の勇者がおらず、残ったパーティメンバーの、魔法使い、僧侶、戦士の俺に勇者殺害の疑いがかけられた。
勇者の一番の親友だった俺が疑われることはないと思っていたが、魔法使いと僧侶は、荒くれ者の俺が気に入らないらしい。
さらに、その前夜に勇者の部屋に行き、出た俺を目撃した人もいるらしい。
そして俺は今、処刑台にいる。町民の祭り気分が台無しだ。どうやらここまでのようだ。
...俺は全てを知っている。勇者は他殺ではない。自殺だということを。
彼は間違いなく、最期まで勇者だった。魔王死後、一番近くにいた彼は特殊な瘴気に当てられ、その身を蝕まれていた。
誰も気づけなかった。隠していたから。
彼はこのままでは人ならざる者になると直感的に理解したのだろう。だから自害した。
一つ一つ絡まった糸を解くように説明すれば、納得してくれるかも知れないし、証拠も出てくるだろう。第一、今俺が死ぬことはない。
でも俺は彼の親友として、彼の遺した誇りを殺さない為に、俺も墓場まで持っていく。
「お前には誇りも何もないのか。何か言ったらどうだ。」
最期に言う言葉?そんなの決まってる。
「勇者サマは最期まで立派だったよ。俺と違ってな!」
俺のちっぽけなプライドで好き勝手させてもらうよ。ルーク。
2024/08/20 #誇らしさ
宇宙が視界いっぱいに広がっている。
大きさの違う星々が瞬いている。
口の端から星が漏れる。溢れる。零れる。
今、宇宙に溶けてゆく。
最期にこんな綺麗な景色が見れて、なんと幸福か。
自分を宇宙の星屑へと変えていく。
いつかこの身果てるまで、宇宙への想いを忘れずに。
月浮かぶ海中にて。
2024/08/16 #夜の海
自転車に乗って、隣のあの子の家へ向かう。
あの子の好きなお菓子を持って、インターホンを鳴らす。何度も聞き慣れた音がした後、あの子が笑顔で出迎えてくれる。
クーラーのよく効いた、女の子らしいピンクのお部屋で喋って、遊んで。
5時のチャイムが鳴ったら、また自転車に乗って家に帰る。手を振ってくれるから、こちらも数倍元気に振り返す。
とある小学生の夏休み。
2024/08/15 #自転車に乗って