君と最後にあった日は、ぼくが君を捨て去った日。
もう二度と会わないと誓った日。
だってもう、どうしようもない。
あの人に最後にあった日は、寒い寒い真冬。
手袋の手の握手を、生涯忘れない。
母と最後にあった日は、秋の最中の暗い朝だ。
もう届かないと知っていても語りかけ続けている。
もう届かない?…誰が決めたんだよ。届いているさ。
だって、もう届かないなんて、かえってありえなさ過ぎる。
最後を積み重ねて手を伸ばしぼくは、それぞれの愛おしさをぎゅっと抱きしめる。
あなたを無駄になんかしない。
ぜんぶ受け入れて、変わり続けるから。
「繊細な花」の氷の花びらに透きとおる闇、掴み潰して、
❁短歌
では1年後、また会いましょう。
そう言ってふたりは、あちらとこちらに分かれて歩き出す。
天の川の星々はまたふたりを隔て、シャラシャラと音たてて冷たくきれいに流れてゆく。
そんなことを言っても、雨が降ったらおあずけでしょう。
1年後だってちゃんと会えるかどうかわからない。
晴れてくれるかわからない。
織姫と彦星は心の中でお互いに手を伸ばし、涙で霞む恋人の顔を今を限りと見つめる。
悲しみは誰にも見せない。昂然と頭を上げて。
いつか自由に会える日が必ず来る。
罪という罪が許される日が来る。
だから………
轟々と音たてて流れる天の川を振り返る。
ああ、もうあのひとが見えなくなってしまった。
あの声も姿も温もりも、胸に焼き付いている。
ほんの少し前まで目の前にいたのに………
…こんなにもずっと引き裂かれていなければならないなんて。
ふたりは天の川のあちらとこちらで、双子のようにそっくりな表情でくちびるを噛む。
らんらんと星のように輝く怒りをたたえた目が、
涙でキラキラ光る。
次に会う日までそのきれいな怒りが、
星々の水の隅々にまで、またキラキラと行き渡って行き…
その怒りに隔てられてふたりは立ち尽くす。
…ふたりは知らない。その搾取された怒りの心が利用されていることを。
隔てるものに力を与えお互いを見えなくさせていることを。
ただそれに気付きさえすればもう二度と離れない。
子供の頃は
学校から帰ったらカップ焼きそば食べて、
ゴロンと横になってマンガ読んで、
遊園地には連れて行ってもらえなかったけど、
いつも家族一緒で、今思うと天国だった。
友だちと写ってる写真なんて、あぁ…なんて楽しそうなんだ…って思わずニコッとしてしまう。
…でも、覚えてるんですけどね~?
子供の頃の私の心の中は、嵐!
いろんないろんな小さな事に疑問を持ってでも答えは無くて、誰もまったく説明してくれなくて、それ以前に問いの立て方も知らなくて、
嵐の中の小舟…
楽しそうに写真に写ってる小さい私を見ると「よくぞ、まぁ…」って思う。
よくぞ、何も知らぬその頭と心だけ持ってふらふら泣き泣き、笑いながら生きてたね。
君の格闘が、今の私に続いていると思うと不思議になる。
「たまには遊びにおいで」ってなんか言いたくなったりして…
「日常」
昨日と変わらない梅雨の日の薄日…
今が、刻々と刻まれて行っている。
大きな悲しみがあった日もあるけれど、
あなたと過ごした日々は何もかも、懐かしい。
大切な日々は宝物。
けれど、
過ぎ去って手が届かなくなるから宝物になるのだろうか?
…私は違うと思う。
たった今、この日々が宝物だと氣付いて、
刻々と、刻々と、
愛して行ければいい。そして、
宝物に氣付くための嵐をも愛し、
何ひとつ、要らないことなんか無かったと氣付く。
ありふれた心の下にある海を、その海流を感じている。