「世界の終わりに君と」
きっかり、今夜0時に世界が終わるとしたら……
エポニーヌのように雨の舗道を彷徨って…何処へも帰らない。
そして、私を知らない君を恋うて、夜空を見あげるだろう。
…幻の君を連れて夜をともに歩くだろう。
君の幻は優しく、…けれど幻だから、
私は君から少しだけ目を逸らして、夜空を見あげるだろう。
もしも夜空の奥の、ずっと奥の、銀河よりも遠い彼方に
………私の家があるなら、
エポニーヌのような流離いの果てに
舗道も川面も夜空もすべてが銀河に変わり銀色に烟ってそして遥かな街の小さな家がふたたび私に現れるなら
本当に今夜0時に世界が終わってもかまわない。
幻の君を置いて、彼方へ落ちてゆければいい………
「最悪」
最悪。最も悪。ですか…。
どっかで読んだような氣がするんだけど、タロットカードの「悪魔」は、悪魔みたいに魅力的って意味もあるらしい。
…ほんとかどうかは知らないけど。
でも、ちょっと、はた迷惑な可愛いヤツっぽくて、嫌いじゃない。
私はこの悪魔のカードの、リバースがいちばん好きだ。
カードが上下逆さまになると、意味が変わるんだけど、悪魔に操られてた人間がそれに気づいて自由になるって意味だ。
一枚の最悪なカードに、悪くないなって意味もあって…なんかね、
追い詰めた悪者にも逃げ道を用意してあげてるヒーローみたいな、余裕とか愛情を感じる。
えーっと…タロット世界の神さまの?
「死神」のカードもひっくり返すと再出発、って意味だったかな。
ひっくり返さなくてもそのまんまで、肯定的に説明する場合もあった。
…別に最悪の状況に、無理に光を探さなくてもいい。
最初からセットになってるからって、言ってるみたいだ。
………あぁ、でももちろん、「最悪」なままの意味もある。
光と対にはなってるけど、闇が、無くなったわけじゃない。
無くなったわけじゃないからね、………ね?😈
それに、最良のカードも、ひっくり返すと、簡単に、
「最悪」のカードになるんだよ………
「誰にも言えない秘密」
誰にも言えない秘密、だったんだけどね、
君には、隠せなかった。
…名探偵なんて、本当にいるものなんだね。
褒めてる訳じゃないよw …何、照れてんのさ。
でも、ぼくの完全犯罪を、未然に止めてくれて、
ありがとう。
いや…完全犯罪なんてものでもなかったのかな?
結局、君には、全部、暴かれてしまったわけだしね…
まるっきりぼくは、ぼくの名探偵のための、記念すべき最初の犯人になるために、
いろいろ無駄な計画をしていたみたいだよね。
まるでヒーローのために悪役が、存在する世界みたいにね。
…穿った考えだって?ぼくもそう思うよ。でもね、
名探偵のためのぼく。
ヒーローのための悪役なら、
ちょっと切なくて、バカみたいで可愛いんじゃないかな?自分でいうなって?w
でも、ぼくの「誰にも言えない秘密」は、
よくある、ただのありふれた復讐譚に過ぎないよ…
君のためのぼくであることのほうが、本当は誰にも言えない秘密なのかもね…
あぁ、何だか本当に、そんな氣がしてきたよ…
ぼくたちはさ、両極に分かたれていたから、求め合ってしまった半身なんだよ…詩的な言い方をするなら。
w…不服そうだね?まぁ、そうだろうね、
ぼくだって不服だよ。
さっきまで復讐心に燃えていたのに、もう、すーっかり冷めてしまった!
でも、両極に別れていたものが、融合してゼロになる。
そんな話の方が、ロマンティックでいいじゃない?
夢があるし、第一、殺伐としていない。
そういうのはもう、いいからさ……それに、
ゼロになってしまえば、完全犯罪が成立するしね……
🌓そんなことを言いながら、君は疲れたように、いや実際疲れ切って…微笑みながらそっと…目を閉じた。
君が嘘つきな事を、私は知っている。
でも、きれいな夢に沈み込んでしまいたいくらい深く、君が悲しんでいるなら…
その偽りの配役を割り振られてもいいよ。
私は「私の半分」の、やりきれない悲しみを知っている。
笑いに紛らわせてしまったその心を、これから少しずつ、
君の半分である、私に見せてね…?
「狭い部屋」
「狭い部屋」に閉じ籠もっている…ように見えるだけ。
そこからどこへアクセスしてるかは、知らないでしょ?
目を、心を、塞がれるように感じるのは、「狭い部屋」のせいじゃない。
目を、心を、塞がれたまま自動的に外へ繰り出す奴だって、いるからね。
…知らないのか?鎖にジャラジャラ巻きつかれて身動き出来ない人ほど、心は旅をするってこと…。
ほら、旅に病んで夢は枯野をかけ廻る…って歌った奴がいるだろう。…誰だったけかな?そんな感じでさ…
…鎖を断ち切ってもやれないのに、「狭い部屋」なんて言うのは、ちょっと残酷かなって思う。
残酷でもいいなら……そうだね、
君のその「狭い部屋」のなかに、いつまでも閉じ籠もっていればいいんじゃないかなw
「失恋」
失うためには、ある、ってことが前提だ。
それは、確かにあった。
恋した人に許可をもらう必要なんかない。
その思いは、恋を失った人のためにある。
きれいな雨の色の宝石。
雨が上がれば、七色に反射する光。
それは全部、恋を失った人への花束だ。
亀裂が入ったビー玉にはキラキラきれいな繊細な、光が入り込む。
その場所に佇むその人…だけの美しさが、
必ずあって、
それはとても悲しみだけでは追いつけない、何かをたたえて屹立する。
こんな人が、美しくないわけがない………