それまで季節はパレードでしか知らなかった
「君が僕をどう思っているかは関係ない」
「ただ聞いて欲しい、好きなんだ」
あなたと過ごしたシュガースプーン一杯だけの夏
続きを書きたいのに書けないのは、
まだ『忘れたくても忘れられない』からなのかもしれない
「お姫様、まもなくお別れの時間だね」
たった5秒の言葉に永遠を見た。
フランボワーズとチョコレートのケーキみたいに、絶妙な甘さや切なさをはらんだアナウンスで解った。
「凛としている」のだと。
掌の中でこちらを見ている中島健人。
その人に出会ったのは、ほんの数週間前のことだ。
流行りのアイドルグループに興味を持ち、有料サービスに登録すると、彼の特集が目に入った。
5年間休むことなく毎日ブログを更新し続けているという。
「きっかけは映画の公開に向けて『自分にできることはなんだろう』と考えた結果、初めたことだったんです。想像以上に反響がありまして。みんなが喜んでくれるなら、と続けて今に至ります」
気づいたら騒々しいバーゲン会場にいて、わけもわからず流され、邪険にされて、出口がみつからず途方に暮れる、そんな数年だった。
「いつか帰るところ」を失くした世界を変えたくて、
雨の日も風の日も寒い日も暑い日もムキになって走った。
それでも現実は、ひとつ、またひとつと崩落の一途を辿るばかりで、次第に「かなしいことが続くのは、頑張りが足りないからなんだ」なんて思い込んだ。
ときには「なんのためにこんなことをしているんだろう」と嘆いたり、そんな自分が嫌になったりして、また走って...
そんなことを繰り返している内、まじないにかかったように、夜は眠れず、食べ物の味もしなくなった。
相変わらず、鏡に映る私の脚は不細工だし、そこから意地悪な姑のように全身にケチをつけ始め、ついには「団子鼻 切らない 整形」なんて検索してしまう夜もある。
だけど、大丈夫。
自分がありたい姿がやっと微かに見えてきた気がするから。
出口がみつかるまで、試着室でポーズでも決めて、そのままニヤリとランウェイさながらに歩いてやろう。
セクシー、サンキュー。
『鋭いまなざし』
「あなたもお母様のように、強い女性になっていくわ」
黒い建物に囲まれた路地の、まるで絵本に出てくる格子の窓から、外の世界を覗いてみると、月の光がテセレーションの石のタイルに残った雨粒に反射していた
珍しくお茶をひいて、人影も、風すらないドビュッシーな夜に
もうすぐ70を迎えるママと20を迎えたばかりの私
「母は私から解放されたくて上京させたんです」
なんて言葉を緋緞と飲み込んで
「母は第二の人生を楽しんでいて...
たまには思い出して欲しいんですよね」とお道化た私を
真っ直ぐ見つめると、曲がった背中を叩いた
「ご自分の子育てとあなた自身を心から信じているのね」
お店の中の古時計が2時を告げると、魔法が解けたみたいに
きれいなママに戻っていた
『こどものように』
まずい。眠っている間すら、かなしいことに支配されている。
今日の起床は、まるで「水中では聞き分けられない、けれどもそこに確かにある喧騒が、水面に顔を出した途端、忙しなく自分の中に押し寄せる」感じで。
「もう起き上がらなくちゃ」と思っても、すぐさまどこからかつめたい風が吹いてきて、小雨が降るだれもいない夜の新木場駅のホームにさらわれてしまう。
遠くのスカイツリーの光が、深い水色や白色なんかにボヤけて見える。
それは灯台はおろか、まだ思い出にすらなっていなくて、目を背けたいものたちを微かに照らす。
しばらく電車は来そうにないし、私は寒さに震えてしまって、動き出せずになんとか目を閉じる。
そんなどうしようもない「はじまり」と「おわり」を繰り返して、部屋には日差しが入らなくなり、気づけばおやつの時間をまわって、近所の学校のグラウンドから部活動の声が聞こえてきた。
今日はわけもない有休で
どこにも行かないし、だれにも会わない。
みんなが「わっせ、わっせ」と世界をまわして
私だけは...... そんな水曜日。
『放課後』