「お姫様、まもなくお別れの時間だね」
たった5秒の言葉に永遠を見た。
フランボワーズとチョコレートのケーキみたいに、絶妙な甘さや切なさをはらんだアナウンスで解った。
「凛としている」のだと。
掌の中でこちらを見ている中島健人。
その人に出会ったのは、ほんの数週間前のことだ。
流行りのアイドルグループに興味を持ち、有料サービスに登録すると、彼の特集が目に入った。
5年間休むことなく毎日ブログを更新し続けているという。
「きっかけは映画の公開に向けて『自分にできることはなんだろう』と考えた結果、初めたことだったんです。想像以上に反響がありまして。みんなが喜んでくれるなら、と続けて今に至ります」
気づいたら騒々しいバーゲン会場にいて、わけもわからず流され、邪険にされて、出口がみつからず途方に暮れる、そんな数年だった。
「いつか帰るところ」を失くした世界を変えたくて、
雨の日も風の日も寒い日も暑い日もムキになって走った。
それでも現実は、ひとつ、またひとつと崩落の一途を辿るばかりで、次第に「かなしいことが続くのは、頑張りが足りないからなんだ」なんて思い込んだ。
ときには「なんのためにこんなことをしているんだろう」と嘆いたり、そんな自分が嫌になったりして、また走って...
そんなことを繰り返している内、まじないにかかったように、夜は眠れず、食べ物の味もしなくなった。
相変わらず、鏡に映る私の脚は不細工だし、そこから意地悪な姑のように全身にケチをつけ始め、ついには「団子鼻 切らない 整形」なんて検索してしまう夜もある。
だけど、大丈夫。
自分がありたい姿がやっと微かに見えてきた気がするから。
出口がみつかるまで、試着室でポーズでも決めて、そのままニヤリとランウェイさながらに歩いてやろう。
セクシー、サンキュー。
『鋭いまなざし』
10/16/2022, 7:40:46 AM