本番行きまーす
男1) またねぇ! (又なの?)
女1) ごめん!もう一回だけお願い🙏
男1) いんや (いいえ)
これで何度目だ
もうまたねえから(待たないから)
女1) そんなこと言わないで
男1) じゃぁ またね(バイバイ)
監督) カーット
ちょっとちょっと訛ってるよー
もう一回やり直して
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舞台袖
女2) ったく
出番来ないじゃないの
もう待たないわ
次予定入ってるし私帰る
じゃあまたね!
男2) そんなこと言わないで
誰だーセリフ被せるんじゃないよー
おあとがよろしいようで
またね!
春風とともに
春よ来いと歌っていたのは遥か昔
寒さで固まった膝関節に
花粉症で引きこもった間に付けた脂肪
全く溜息しか出ない
あーあ又この季節
否応なしに毎年春風が問うてくるよ
待ったなし夏は直ぐそこ
怠惰な時間を後悔するだけか
ここがターニングポイントだよ
どうするどうするー
そりやぁこれからの季節楽しみたいよ
暖かくなったし よし ピラティス再開
ビギナーじゃ効果薄そうだから
中級者クラスあたりから始めてみようっと
iPadから聞こえるトレーナーの声
『はい呼吸が大切よ』
『まずはお腹を引っ込めながら息を吸う💨』
何?どういうこと?
お腹に力が入らないんですけど
花粉症の咳で腹筋は鍛えられてたんじゃ……
膝どころかお腹の筋肉までなくなっちゃたの
息をするってこんなに難しかったっけ
こんなはずじゃ…….
『はい お腹をえぐるように息を吐く💨』
待ってまって〜無理ッ
春風さんちょっと冬に巻き戻してくれる
とりあえず一週間
トレーニング前に病後の回復期間が要るみたい
私の願いが通じたんですかね
夏日の後に寒さがどーんと戻って来ちゃった
春風さんありがとう私腹式呼吸を取り戻すから
次会う時はさあがんばれって後押しよろしく!
『涙が溢れて辛い』と言葉少なに母が言った
えっ 何かあった?
ドキン 私の胸が一瞬固まった
我慢強く感情や身体の不調を周りに出す人ではなかった母が辛いという
弱音など吐いたことのない人が私を頼るなんて
それ程の抱えきれない辛さって……一大事だ
気づかれないよう背中で深呼吸をした
「涙が止まらないほどのつらさって」
母の傍らに座り 優しく語りかけた
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『涙が溢れて出て止まらないんよ
一日中目の縁に涙が溜まったままで
拭き取ってもこぼれ落ちてくる』
えっ
母の眼を覗き込んだ
確かにウルウルして涙で満ちている
『見えにくくてね…』
母の言葉をさえぎって急ぎ問うた
「いつからなの?」
『もう何ヶ月も前から』
目の縁が赤くただれてしまっている
「何で早く言わないかな眼科で診てもらおう」
いつもの責めるような口調で言ったに違いない
病院嫌いの彼女だったが 拒否しなかった
シフトを調整して老いた母と病院へ行った
涙腺が詰まって鼻に抜けなくなってると言う
目薬と軟膏をもらって
これで治るよ良かったねと母に言い
私は重荷から解き放たれた気分だった
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またいつもの忙しい日常に私はサッサと戻った
肝心な母の眼が治ったのかの記憶がない
直ぐには完治しないよと言ったような覚えが薄っすらあるだけだ
母を見送って久しい 今
自分が病を抱え常に不調な時間を過ごしている
調子はどう?
周りの何気ない一言に癒しと力を貰っている
お母さんごめん
あの頃の私には言い出せなかったことが沢山あったよね
今思い出して 私 後悔の涙が溢れてくるよ
ここで待ってて中に図書室があるから
見知らぬ建物の前で私は1人になった
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受け付けらしい場所には誰もいない
私が書棚の回廊だと思ったのは寄贈本のコーナーだった
旅行の本を探そうとしたが雑な配架でみつけられない おまけにブランクの棚には 誰かが選んだままなのか積み重ねられた本達が置かれている 本の忘れ物?迷子みたいでかわいそう
黒馬ブランキー チャイルドブック 香の本
星野富弘詩画集……
いやいやこれも縁かもと一冊ずつ目を通しては
背表紙が見えるようにもどしていく
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鈴の鳴る道 花の詩画集
久しぶりに手に取った星野さんの本
(去年の春に亡くなられていました)
筆を口にくわえて力強い絵を描くという衝撃
その短い詩に込めたリアルなメッセージ
初期の頃から彼の作品に心打たれ大切に思ってきた….はずなのに久しく忘れてしまっていた
不慮のアクシデントで身体の自由をなくした
彼は多くの人の支えのもと詩人画家になった
その原点は身近な家族との共同作業
彼の思い描くイメージの色を お母様や奥様が根気よく作り出していたとその本で語っている
「46時中一緒なの私だって1人になりたい時があるわよ」そんな一言を奥様が(多分若い時ね)
言ったエピソードと共に
それでも自分を放棄せず すぐ後には日常の事全てをいつも通りにやってくれていたと
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年齢と病でほんの少し身体の自由度を失っただけで心が冷え笑うことが減った自分
身体の自由を奪われるということは
衣食住気に必要不可欠な行為さえ誰かに委ねなければならなくて
そのためには膨大な情報の一つ一つを他人に伝える手間と根気がともなうことを改めて思い知らされた
そしてそれを受け止め支える相手が存在していること
どれほどの傷みを抱えて生き切ったんでしょう
なのに彼の詩は優しくて力強くて正直で
何日もかけて少しずつ写生するという作品には
瞬間の感動がぎっしり詰まっている
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待った?人気のない空間に静かな声がした
こちらに向かって歩み寄ってくる人影
笑顔で応えていたと思う私
「ううん いい時間だったよ」と
ホント思いがけず彼の作品に再会し
当然だと思っていることがそうではないと
見失ってた幸せに気づけたから
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わたしは傷を持っている
でも その傷のところから
あなたのやさしさがしみてくる
星野富弘
小さな幸せ
春爛漫って
暖かい陽気と彩りの中
ウエルカムでハッピー自由なイメージだよね
植物 鳥 昆虫 生きとし生けるものぜーんぶ一気に活気づいてさ
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だけど あちきには無縁 外の世の事ざんす
空気清浄機がフル稼働する屋敷の囲われ者
花粉症重症患者という名でありんす
花粉症おさらばえーなんて
高笑いで
桜の花道を仰ぎ見て
粋にお別れする夢もありんした
所詮 夢はゆめ
臈長けたあちきに 杉様がまだ御執心
手放してくれないのでござんす
外の世は今年も 春爛漫でありんすか🌸
(年増花魁が杉花粉の苦しみを語る)