伝えたい
誰に?
何を?
いつ?
何のために?
そんな説明調の理屈で固めていたら
使い古した言葉が頭をグルグル
伝えたいものなんてない
空っぽになってしまう感じは
輪郭のボヤけた自分を認めるようで
言葉にするほど私が希薄に
何気ない毎日の積み重ねと時間の裏付けの中で誰かが気づいてくれる事
鍾乳石のように薄々見えて来るもの
そんな気の遠くなるような言葉ではない
伝え方がある事ならもう見つけたよ
誰かの伝えたいを拾って歩く側の人
これが私
この場所で
石の階段を上った先にある小高い一軒家の窓辺
尾道特有の山肌に張り付くような家並みを下に吹き上げてくる海風に体を預けている
川のように狭い海を隔た向こう側
小さな島が見える
ピコン〜依頼主からのメッセージが入った
---部屋のものはご自由にお使いください
1年間よろしくお願いします---
私はもともとこの町の住人
ただ依頼主の対岸の島育ち
都会に憧れ故郷を離れ転々としている身
30を過ぎても居場所が見つけられないでいる
久しぶりの帰郷だ
10代の頃、島育ちは本州側の町民から見下ろされていると勝手に思い込んでいた
それが嫌で島を離れた
ところが最近になって尾道を舞台にした映画のシーンを繰り返し夢に見るのだ
私は高台の部屋にいて
尾道特有の山肌に張り付くような家並みを見下ろしながら吹き上げてくる海風に髪なびかせつぶやいている「どこか遠くへ行きたいな」って
そんな時この依頼を目にした
〜1年間住んでくださる人を募集します〜
東京の住所のまま応募したらすんなりと任された 今日からは私が見下ろす側の人になる
この場所で一年過ごしたら島のあの場所は転々とした都会はどう見えるんだろう
腑に落ちる何かを掴みたいこの場所で
誰もがみんな
かつて誰もがみんな二つの扉を持っていると信じられていた
一つ目は生…卵子に辿り着いた勝者に与えられた扉で同時に人は選ぶ力を授けられたという
もしも二つ目の扉…死のドアを開けたくなったらその前にセイフティーネットが用意されている世に存在していることを思い起こすといいとされ、選ぶのは自分なのだと気づかされたらしい
既に自身の生と死の覇者なのだから思う存分この世を楽しめばいい
そう思えるんじゃないか…と
一握りの人の世で同時進行していた事がある
あなたは銀のスプーンを持って生まれた方
あなた様の扉はこちらにご用意があります
扉を選ぶ必要はありません
なので我々執事に全てお任せ下さい
ご両親様の意向は既にプログラミング済みですそして2つ目の扉を開けることはないでしょう
そもそも選ぶ力は必要ないのです
等しく生と死を持っていたのは遥か昔…
下等な生き物だった頃
今は主人と従者の扉のみ
あなた様はご主人様のスペアなのですから
もし選ぶ力を欲したならそれは従者の扉を開けてしまうことになるでしょう
人の歴史の表と裏 姿形を変えて繰り返し
これを進化というのだろうか
花束
おじさんまだ〜?
のんびりしてると陽が落ちるよ
海沿いの山道は行けども行けども石造りの質素な民家と果樹ばかりでお目当ての花は見えない
ラベンダーの島だって聞いたからわざわざここまで来たのに
イルミネーションなんて無さそうだし
日暮れたら車チャーターした意味ないよ
片側に広がるアドリア海に沈む夕陽もきれいなんだろうけど…そんな事思いながらも気が逸る
かなり登ってようやく丘らしい場所にさしかかった
さえぎるものがないため強烈な夕陽があたり一面をオレンジ色に染め抜いている
車内にも容赦なく射し込んで来て思わず目を細めてしまったその先に紫と茶色のグラデーションの一帯が見えた
ラベンダー?ここでいい!降ろして
程なくトラックが止まった
どうやらここがおじさんの畑らしかった
観光客用ではないのが一見してわかる
近づくとラベンダーの円い塊が痩せた畑を秩序なく埋め尽くして海風にあおられ強烈な香りを放っていた
ワイルドだな〜これもラベンダー?
富良野のイメージとは大違い
橙色のフィルターがかかった畑を大急ぎで駆け巡り夕陽と追いかけっこして記念写真
いつの間にか西陽は水平線に沈み残照に変わっていた
帰らなくっちゃ
トラックを探すとおじさんがラベンダー片手にこっちこっちと手招きしていた
助手席にとんと腰掛けた瞬間にどさっとした重みがのしかかった
おじさんが私の膝に無造作に置いたラベンダー
ピンとして膝からはみ出している刈りたての花は新鮮な力強い香りを放っていた
この島に根付いてきた野生のみずみずしさこれぞハーブって感じでパワーがみなぎっていた
一期一会の人からのワイルドな花束を縦に抱きしめておじさんに別れを告げた
満足感で一杯のありがとうと一緒に
スマイル
久しぶりにお気に入りさんの投稿を見つけた
あなたの世界感に浸っていたらスマイルが戻っていた
ありがとう ありがとう ありがとう
あなたはいつも笑顔を同封してくれる
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ー朝イチから些細なことで夫を叱った私ー
布スリッパでお風呂場に入らないでって
いつも言ってるでしょ
慌ててマットで底を拭う夫
大丈夫だよいつもこうしてるから
何言ってるの!
スリッパを裏返し水が染み込んだ底を見せつけた
廊下中の跡はこのせいなんだからね
証拠品を前に口ごもる夫
まるで刑事と犯罪者
そうだよね いつも追い詰める言い方しかしてないや嫌な感じ全開の鬼ババアだ私
夫婦二人きりが笑顔で過ごすには技術が要るよ
「笑いながら怒る」なんてお題だったら最高で
投稿ぜーんぶ実践しちゃうんだけど…
「スマイル」のおかげで今はそんな殊勝な気分