『涙が溢れて辛い』と言葉少なに母が言った
えっ 何かあった?
ドキン 私の胸が一瞬固まった
我慢強く感情や身体の不調を周りに出す人ではなかった母が辛いという
弱音など吐いたことのない人が私を頼るなんて
それ程の抱えきれない辛さって……一大事だ
気づかれないよう背中で深呼吸をした
「涙が止まらないほどのつらさって」
母の傍らに座り 優しく語りかけた
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『涙が溢れて出て止まらないんよ
一日中目の縁に涙が溜まったままで
拭き取ってもこぼれ落ちてくる』
えっ
母の眼を覗き込んだ
確かにウルウルして涙で満ちている
『見えにくくてね…』
母の言葉をさえぎって急ぎ問うた
「いつからなの?」
『もう何ヶ月も前から』
目の縁が赤くただれてしまっている
「何で早く言わないかな眼科で診てもらおう」
いつもの責めるような口調で言ったに違いない
病院嫌いの彼女だったが 拒否しなかった
シフトを調整して老いた母と病院へ行った
涙腺が詰まって鼻に抜けなくなってると言う
目薬と軟膏をもらって
これで治るよ良かったねと母に言い
私は重荷から解き放たれた気分だった
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またいつもの忙しい日常に私はサッサと戻った
肝心な母の眼が治ったのかの記憶がない
直ぐには完治しないよと言ったような覚えが薄っすらあるだけだ
母を見送って久しい 今
自分が病を抱え常に不調な時間を過ごしている
調子はどう?
周りの何気ない一言に癒しと力を貰っている
お母さんごめん
あの頃の私には言い出せなかったことが沢山あったよね
今思い出して 私 後悔の涙が溢れてくるよ
3/30/2025, 2:23:36 AM