365日四季を問わず実家には花が飾ってあった
家庭とはそういうものだと思っていた
とりたてて褒め言葉を言った記憶がない
大振りの枝物をアレンジするのが得意だった母
玄関に生けたそれは 花を纏っていても威厳があった
子供心に 他にはない佇まいを感じていた
仕事で留守がちの父の代わりをし 家や子供達を守っていた母の分身だったのかもしれない
遺品の中に生け花の写真が見つかった
年老いた母が撮ったものだそうだ
花好きの母らしい
懐かしい想いでそのアルバムをめくる
一輪の花を愛でるように生けた一枚があった
「きれいだね これにまつわる話聞かせて?」
どうしても母に尋ねたくなった
「Go Go Ki Ki」
「ゴーゴーキーキ」
ポトン しぼった声が住宅街に落ちる
『もっと大きな声で言って!
しゅやくとかんとくは 私なんだからね』
真顔の孫から檄が飛ぶ
「はいっ かんとくわかりました」
『もういっかいとりなおすからねっ』
ピンクの長ぼうきにまたがり黒いワンピース姿の孫は 女優気取りで早くもスタンバイしている
「Go Go Ki Ki ⤴︎ゴーゴーキーキッ⤴︎」
勢みをつけてデッキを飛び立ち 庭を駆け抜ける
ブルーベリーの茂みに隠れてしまうまで
ギャラリーは声援の風を送り続けるのだ
🐈⬛ 🧹 🧙♀️ 🎀
キキの旅立ちは上手くいったかしら
魔法の修行へ出かけたんだもの
直ぐには帰ってこないわよね
アドリブとも心の声ともつかないセリフが次々と湧き上がってくる
『おばあちゃーん 私どうだった?』
真っ直ぐな大声がしたかと思いきや
満足そうな女優ちゃんが手ぶらでバタバタ駆け寄ってきた
ぎゅっと抱きしめた瞬間に
「おかえりしんぱいしたよ」
答になっていない言葉が飛び出した
ゆっくりとしゃがみ
彼女と目線をあわすフリをして
「最高💓ほんとに飛んで行っちゃたかと思ったわ!」 あわてて自分に魔法をかけた🪄
《君と見た虹》
あーちゃんが虹の橋を渡った
速く荒い息が絶え間なく続く……
添い寝の私に彼女はトイレの合図をした
かわたれ時の庭で 用を足した
少しだけ私に身体を預けて
えらいね あーちゃん
お腹の水もオシッコと一緒にだせたらいいのにね
私は彼女を抱きあげ そのまま夜明けを待った
赤ん坊を寝かせるように揺らしながら
空が白んでくるのを 祈りと共に待った
優しいあすか先生に会いに行こうね
もうすぐ空が明るくなるからね
あーちゃん だいじょうぶだよ こわくないよ
私たちはデッキに座りパーゴラを見上げた
キーウイの若葉が私たちを見守っていた
その時は 突然にやってきた
何かが腕にもたれかかる エッ
ガクッ 視覚より鮮明なその瞬間
肌に伝わるあなたの温かい重み
急いで愛犬の頭を支え直し 覗き込んだ
全身を委ね 腕の中で安堵するあーちゃん
白い毛並みが曙色に染まっていった
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近頃ね、あの朝の事をよく思い出すのよ
おばあちゃんになったんだね私
そろそろかしら 会えるの楽しみ フフ
『夜空を駆ける』か
いい場所を知ってるんだ
そう、専用のプラネタリウムみたいなとこだな
田舎の一軒家 俺の実家さ
思い出すな 屋上のコンクリートの感触
硬いだけじゃないんだ これが
横たわるとわかる四季折々の体温やにおい
この箱だっていきものなんだって
子どもには何にでも触れさせた方いいぜ
直に響く感覚が大事さ 無駄はない全部宝物
好きに出会う黄金のアイテム
自分を信じる力の素
で、何の話だったけ?
ーーー夜空を駆けるーーー
What brought you there
そうだな
センサー過敏な昼間の自分を剥ぎ取ることが必要だって 無意識に感じてたのかも
夜空との距離感が心地よかったんだろうな
今思えば
オリオンは高くうたい
つゆとしもとをおろす Kenji
大人の仮面を被ったとたん
ひそかな思いと密かな企みが合わせ鏡に
映り込む
なんじゃこりゃあ