Open App
6/15/2024, 4:24:06 PM

付き合ってどれくらいと考えればある程度長くそばにいるのだが、その殆どが遠距離だったため、こうして部屋に入るのは初めてだったりする。
散らかっているけれど、なんて本当に口だけで。
綺麗に整頓された、こざっぱりとした部屋。
物持ちが良いのか、それともあまり持ちたがらないだけなのか。
分かるのはビデオ通話から見えた世界は実は存外広かったこと。
棚に並べられた賞状を眺めては、彼の抱える今が自分の理想とする行動を丁寧になぞるようで、とても嬉しく、こそばゆく、誇らしかった。

そしてその棚にささっている痛みのある本は『好きな本』なのだろうか。
何度も手に取り、読み込まれ。
どんなに生活リズムが変わろうと変わらない本。
そんなささやかなことですら滲み、こみ上げるものがあって。
自分が知る彼は。
まだほんの表面でしか知りえなくて。
あまりにも俺たち二人の間には時間が足りなくて、歯痒かった。

6/14/2024, 1:40:23 PM


夢の中で思う。
なんて残酷な夢なのだろうと。

まるで以前からそうだったように、さも当たり前にあの人が隣にいる。
僕と同じ制服を着て。
今日の授業なんだっけ、ああ宿題忘れてた、見せて。
なんて。
なんて、悪夢。
するりと少し大きな、タコや突き指で歪んだ指。
繋がれた手と手。
ありもしない事を望んだってどうしようもないのに。
それを幸福だなんて。
どうかこのまま。
醒めないで。
醒まさないで。


温度も匂いも色もない。
どこかはっきりとしない夢は『あいまいな空』のようで。
ところにより雨なのは僕の心のようだ。

6/13/2024, 12:13:51 PM

今年は梅雨なんてとうに過ぎ去ってしまったかのような夏日が続いている。
からりと晴れてくれればそれでもいいのだが、のっぺり張り付くような湿度。
不快指数も相まって今日の教室はいつになく静かだ。
まるで破裂前の風船のような、嫌な緊迫。
誰かが何かを告げる、もしくは行うと容易く弾けるのだろう。
食事後の5限目でなけば。
大半の生徒が各々体を取り繕って好きなように過ごし、それを教師は黙認。
藪蛇なんて突かず、過ぎ去ってしまえばいい。

達観といえば聞こえはいいが、こちらも好きに過ごしている側である。
あちらも同じく授業中であるはずなのに送られてくる色とりどりの『あじさい』。

『なあ、何色が好き?』

形も色も多様に増えた、愛でられた花。
色移るから浮気なんて、可哀想な花。

『あなたの色』

なんて、素っ気ないやり取り。
少しだけ間があって、僕の無茶振りに的確に合わせる写真。
きっと向こう側では得意気に笑っているのだろう。

想像して、少し寂しくて。
あなたからもらったたくさんの色を眺めて。
背筋をほんのすこし伸ばした。

6/12/2024, 2:55:58 PM

くるりくるり、初夏にも負けない黄色の花びら。
座り込んだ足の間にゆっくり降り積もっていく。

「『好き嫌い』好き、嫌い、好き」

「……そんな枚数いっぱいの花占い、初めて見ました」

心底呆れたように言うこいつは今日やっとこちらを見た。
季節外れのたんぽぽはお前に似ている。
ふわふわ。柔らかくて。
強弁や腕力に物を言わせない。
どんな場所でもしゃんと伸び上がっている。
それがとても誇らしくて。
……さびしいなんて。

「いつか、綿毛になって飛んでっちゃいそうだもんなー」

手の届かないところに飛んで。
それでもきっと。

「応援してくれるんデショ」

誰が見ても忘れられない。
その姿を。

6/11/2024, 3:21:17 PM

一人新幹線に乗るまでは良かった。
目的地のホームに着いた途端、人、人、人。
地元とは比べようもないくらいの息苦しさに、手荷物を少なめにしていて良かったと改めて思った。
ただ。

「……どっちに行ったらいいんだろう」

今いる場所も、目的地も分かるのに。
その間のルートが分からない。
以前来た時もその前も誰かが一緒で。
おびただしい人の群れ、溢れ返る匂いと熱。
少しの心細さに『街』に呑み込まれそうになりながら改札を目指す。
壁にもたれるよりも早く一息つきたくて。
少しでも早く、あいたくて。


Next