両腕を枕に机に突っ伏した姿。
連日の疲れなのか、よく寝ているようで。
伸びた手のひらにそろりとゆびさきを這わせると、夏でも少しひややかな僕の指にぴくりと反応する。
けれど、起きることはなくて。
少しばかり安堵する。
腕の隙間から見える、伏せられた瞼。
薄い唇。
吸い寄せられるように、ひとつ。
そう、これはあなたにも『誰にも言えない秘密』。
「すきです」
今、何を言った?
ただ並んで座って、当たり障りのない話をしていたはず。
いつまでもはしゃぐ同級生や先輩の姿を見ながら、入らないの?と聞かれたのだ。
そんな、まさか。
反射的に否定して、左隣を見たのだ。
いつもの好戦的な笑みでも、先輩風を吹かすお節介焼きの笑みでもない。
彼が浮かべる柔らかな笑みはきっともう見られないんだろう。
そう思った時には口を衝いていた。
そして、今。
「……え?」
困惑を隠せない表情。
即座に知る『失恋』。
「その水、好きなんですか?」
これ以上気付かないように、傷付かないように。
手に握られたミネラルウォーターのボトルに視線を落とす。
「ミネラルウォーターが好きなんですよ、どこのですか?」
矢継ぎ早に質問をし、彼の意識を逸らす。
戸惑いながらこれは、と答えてくれる声はもう耳には届かない。
この場をすぐにでも逃げ出したかった。
「ねえ、俺のこと、好きでしょ」
「好きじゃないです」
間髪入れずに否定して視線が右を向く。
それが決まって嘘を吐いている時の癖だと知るまでは信じられなかったが。
「俺は好きだよ」
「そうですか」
知ってしまうと今までの素直になれない屁理屈ばかりの言葉も、色白い首筋を赤く染めるほど、愛に溢れている。
《正直》に言えば同じく愛を口にして欲しい所だけれど。
愛をささやいて、こんなにも近くにいることを許されて。
愛以外に何があるというのだろう。
『今日、夕方から雨降りそうです』
起き抜けに見た画面がメッセージを伝えている。
どんなに離れていてもすぐに繋がれて。
『おはよ、めちゃくちゃ晴れてるけど??』
『傘、ちゃんと持って行ってくださいね』
簡潔過ぎて業務連絡すらある言葉に挨拶すらないのか、と思えば眠そうに目を擦るスタンプがおはようと告げた。
時期にしてみればそろそろ『梅雨』入りか。
朝にはあんなに夏の気配を宿していた太陽は雲の向こう。
どんよりと垂れ下がった幕に気持ちもめげてしまいそう。
ふわり鼻腔をくすぐる、湿った土と日に照らされたアスファルトが混ざる匂い。
あぁ、雨が降る。
ただまっしろなまま。
だれにもなににもそまらないまま。
そんな存在になれたら、と。
ねがっていた『無垢』な想いは、いつのひか。
あなたをあらわす色をほしがっている。