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「すきです」
今、何を言った?
ただ並んで座って、当たり障りのない話をしていたはず。
いつまでもはしゃぐ同級生や先輩の姿を見ながら、入らないの?と聞かれたのだ。
そんな、まさか。
反射的に否定して、左隣を見たのだ。
いつもの好戦的な笑みでも、先輩風を吹かすお節介焼きの笑みでもない。
彼が浮かべる柔らかな笑みはきっともう見られないんだろう。
そう思った時には口を衝いていた。

そして、今。

「……え?」
困惑を隠せない表情。
即座に知る『失恋』。

「その水、好きなんですか?」

これ以上気付かないように、傷付かないように。
手に握られたミネラルウォーターのボトルに視線を落とす。

「ミネラルウォーターが好きなんですよ、どこのですか?」

矢継ぎ早に質問をし、彼の意識を逸らす。
戸惑いながらこれは、と答えてくれる声はもう耳には届かない。
この場をすぐにでも逃げ出したかった。

6/3/2024, 2:07:32 PM