やるせない気持ち
誰も悪くない。
あなたには、あなたの。
私には、私の、自由があっただけ。
どちらが正しいとか、間違っているとかじゃない。
わかっていても、どうにもならない、やるせない気持ちが渦を巻く。
ドロドロと体内を巡る、吐き出しようのない、真っ黒な。
世界が切り離せるものなら。
私達は互いに背を向け、自分が信じるままに、まっすぐ歩いていけるのに。
一つしかないこの理不尽な世界で。
今日も誰かが、自分だけの正義を掲げる。
海へ
心が疲れた時、ふと海へ思いを馳せる。
一定のリズムで繰り返す波音。
寄せては返し、寄せては返し。
遥かな太古より、連なる時間。
静かに波打つ日もあれば、荒ぶる波頭が牙を剥く日もある。
とぷんと意識を水中へ沈めれば、いつか見た美しい珊瑚の海。
色鮮やかな熱帯魚の群れ。
更に深く潜って深海へ。
過酷な環境に最適化された奇妙な生き物たちが、マリンスノーの中で揺蕩う。
光の届かない、海の底に横たわり目を閉じる。
身体を丸め、産まれる前の胎児みたいに。
全ての始まりの場所で。
私は、もう一度、自分自身を見つけ出す。
裏返し
全ての感情は裏返し。
想いが強ければ強いほど。
好きと嫌い。
興味と無関心。
好意と悪意。
愛と憎しみ。
些細なきっかけで、それは裏返る。
好きだった分だけ嫌いに。
興味を持った分だけ、関心を無くし。
好意を寄せた分だけ、悪意を。
愛した分だけ、憎しみを。
想いを寄せた強さのまま、そっくりそのまま裏返る。
鳥のように
鳥のように飛んで飛んで、何処か遠い場所へ。
海を越えて、遥かな未知の国へ。
誰も私を、知らない場所へ。
そうしたら、きっと。
私は『自分』でいられる。
本当は。
どこまで飛んでも、力尽きて落ちた先でも。
私は、私でしかいられないし、
それを赦すことができるのもまた、私でしかないのだと。
とうに知っているけれど。
さよならを言う前に
さよならを告げる前は、これでやっと楽になるのだと、そう思っていた。
心が軽くなって、きっとずっと息をするのが楽になる。
そう信じて、願って、ただこの決意が揺らぐことだけが恐ろしくて。
追い立てられるように、受話器越しに別れを告げた。
後悔しないように、今まで辛かったことを並べ立てて、決して心変わりなどありえないと。
そうしてあっさり別れは成って、私は開放感に満たされ。
一瞬後、怖ろしい喪失感でいっぱいになった。
何かを間違えた気がしてならなかった。
震える手で、どうしても消せなかった番号をタップして。
『何故』
訝しげな声に、既に他人になった人の声に。
私はようやく自分が望んだものの正体を理解して、泣いた。
そして今度こそ彼の番号を消した。