#冬は一緒に
ハロウィンが終わると
途端に始まる恋人達の為のクリスマスムード
鍋のCMでは
あったかそうな家族が描かれている
売り場でも奥さん方が
今日は冷えるし面倒だから鍋にしようと話している
そんな中でバイトをするボッチが
冬を恨めしく思って何が悪い。
「もやし煮えたよー?」
その声にハッとする。
手元には色違いの端を握って、茶碗と器もそう。
そうだった。
よぉ、冬を恨めしく思っていた俺へ。
お前もまだ大分先だけど
すっげー可愛い犬系彼女とクリスマスデートするんだぞ。
鍋もこうして一緒に食べてる。
只、ひとつ言うなら。
頼むから、
クリスマスデートの写真を1枚で良いから撮れ。
阿保みたくぼうっとして俺の彼女可愛い過ぎるなって見てたら、あっという間にデートが終わってた。
俺から俺へのマジで情けないアドバイスだ。
今は、一生懸命もやし頬張ってる。
いっぱい食べる俺の嫁可愛い過ぎる。
#とりとめもない話
「そう言えば午後から雪が降るんだって」
「今日の晩御飯は鍋かなぁ」
「ワンちゃんがチョチョイ、って前足を出して来るの構って欲しいなってサインらしいよ」
ぱらぱらと話すその声が好きで
手元のペンを止めて思わず聞き入ってしまう
一見すればとりとめのない話だが。
これは、アレだ。
「知ってるか?ワンコ飼いは犬が構って欲しいアピールをすると、"分かった分かったから"と言ってしまう確率が高いらしいぞ。」
「ふーん?」
だから何だろうと首を傾げるその姿が
もう、そうなんだよ。
とうとうペンを置き、端へ寄せるとこちらをじっと見つめる瞳が。
「好きな声が話していると、つい聞いてしまうから。返事しなくて悪かったな。」
おいで、と手を広げると慣れたように腕に収まる。
あんまりぎゅうぎゅうするから
つい、口をついて出てしまった。
「わかった、わかった。」
#風邪
「マジでキツい」
「俺、スゲー熱有るわ」
「マジでヤバいわ」
構って欲しいんだよ
だって心細いだろ
そう思ったのに嫁はピシャリと言い放つ。
「キチーなら寝てろ。熱有るに決まってンだろ。インフルだぞナメんな馬鹿。」
嫁はこう言う時の口の悪さは天下一品。
ちょっとヤンチャな巻き舌でキレて来る。
そしてその下らない馬鹿な俺の為に卵雑炊、とぽつんとひとつ飴玉を乗せた盆を差し入れてくれた。
この前車検に行った時に貰った
タイヤメーカーのロゴ入り付箋に嫁の文字が見えた。
"早く良くなりますように"
ダバッ
涙より先に鼻水が出た。
汚ねぇ、と思ったのに涙まで出てくる始末だ。
嫁がどんな思いでこの付箋を付けてくれたのか。
「ありがと、」
その時、スマホが光った。
通知が来てる。
見ると、嫁の欲しいものリストのURLがズラリ。
「分かったよ、何でも買ってやるよっ、」
#雪を待つ
なぁ友よ
あんたは常に真摯であり続ける、という努力を怠らない。
あんたは
誰もが棘付き薔薇を
ただ棘付きだから気を付けてね、と渡す所を
あんたは
棘を全部取り払って尚。
棘が付いてるかもしれないから気を付けてね、と言う。
お人好し。
「今日はご機嫌斜めなんだ?」
「うん。」
「皆が目を見合わせて驚いてたよ。今日のあんたは冷たいって。」
「うん。ごめん。」
この人間大好きなお人好しは
ほんの一握り以外の人間を時々放り出す時がある。
誰にも構ってやってるヒマはねぇ、って感じでね。
「どうしたんさ?」
「ううん。」
口が硬い友人だな。
「雪だるま作ろう〜」
「雪が降ったらね。」
おや、本当に今日は冷たい。
困ったね、と溜め息を溢すと彼女がつられて息を吐いた。
「人間なんてみんな、大っ嫌い。」
「へぇ?あんたが?」
「自分勝手で、すぐに八つ当たりする、喜んで被害者面をしてバクバク他人の不幸を食べて指差して笑う。ーー今日は私が笑われた。」
「あらま。」
「私は被害者じゃないっ、私はたまたま今日アンラッキーだっただけで、不幸じゃない。指差して笑われる意味が分からない... ...っ、」
なんて言葉を掛けるべきだろうか。
悩んで結局、何時もと同じ事を言うしかなかった。
「「距離を取りなさい。」」
何からでも良いんだ。
そんな記憶から距離を取っても良いし、
そんな人間からも距離を取っても良い。
あんたは孤独じゃない。
「雪が降ったらもう一回、歌ってくれる?」
「うん?」
「私も雪だるま作る。」
「良いね。」
#イルミネーション
心地良い重さの
同じ名前の絵の具を絞り出して固めた様な
紡錘形の果物で
爆弾騒ぎを起こす犯人
という妄想をした人を思い出す。
私も
ここ暫く続いていた憂鬱を晴らしたくて、少し緩やかに帰路を歩いていた。
「そうだ。」
目の前のやけに眩しい目障りと言えなくも無い電飾
私も普段なら素直な気持ちで綺麗だと言えた。
けれどここ暫くの私は違う。
そしてたった今から
私はどうにも込み上げる思いを堪えきれないでいる。
私も。
私も同じ妄想に取り憑かれる。
私も。
あの美しいイルミネーションに。
ひとつだけ妙にズレた奴があった。
私はそれを元有った様な空気感で置き直す。
この時、私は極々小さな
そうだな。百均の胡桃ボタンを忍ばせる。
「ふ、ふふっ。」
分かってる。
これは妄想。
現実では只、綺麗な電飾に手を触れただけの女。
けれど今
私の心は高揚している。
憂鬱は風と共にさっと吹き飛んだ。
「胡桃ボタンか。」
我ながら良いセンスだ。