#愛を注いで
例え誰が読まずとも
例え言葉が足らずとも
誰より才の無さに咽いでも
私だけは
私が溢す言葉を愛している。
もし瓶にたくさん言葉を詰められたなら
それは
何より大切な宝物にならないか?
#心と心
何時が良いのかな。
人前で手を繋ぐ事すら勇気が出ない。
けど、触りたい。
「あ。」
「なに?」
「前髪、跳ねてる」
「えっ!?」
「触って良い?なおして、あげる。」
照れてる。
可愛い。
髪、柔らかい。
女の子ってなんでこんな、髪まで柔らかい訳。
「ついでに頭も撫でて良いよ。」
「えっ!?」
「へへっ、良いよ。」
#何でもないフリ
「痛っ」
会社で転んだ。
すてんっ
幸い誰も見てなかったのに
立ち上がった時には人が現れた
笑い話にも消化されない
ただ無意味に
セーターにぽこっと穴を開けられた気分
こんなこと。
泣く理由にはならない
だってどこも怪我してない
ただ
すてんっ
と転んだだけ。
「おぉ、おかえり。偶然だな。」
ハッと顔を上げたら恋人が玄関の鍵を開けた所だった。
「どした、腹減った?」
首を振る。
何でもないフリくらい私にも出来る。
「そう?」
「ご飯、つくる。」
「今日鍋だろ?」
「うん。」
靴を脱ぐ。
コートも脱いで、身体が軽くなった。
「その前に、何か忘れてない?」
「え、鍵かけたよ」
「おかえり。」
もう一回、今度は目を合わせて言ってくる。
「おかえり。」
あぁ、いいや。
尻もちなんてどうでも良い。
私が帰って来て嬉しそうに、おかえりって言うひとがいるのに、尻もち?
「ただいまっ」
「おぉ、元気になったな。」
「へへっ。」
「ほら、鍋の用意するぞ。」
#仲間
なぁ何処へ行ったんだ
此処は。嗚呼、
「そうか。」
なぁ吾が盟友よ。
妻より先に死んではならぬという約束は守れそうかい
なぁ吾が親友よ。
聞いておくれ。孫が目に入れても痛くねぇんだ
おいこら悪友よ。
お前の六文銭は俺が払ってやるから
これ以上碌でも無い悪さはするなよ
なぁ吾が戦友よ。
ーー・・・俺たちはよくやったと思わないか
よくやった、やり遂げたとたまには褒めてやれ
「嗚呼居た居た。おーいこっちだよぉ!」
それから吾が朋友達よ。
お前達の半分は
こうしてしがない俺を迎えに来てくれた。
残り半分、お前らがくたばったら俺が川向こうから手ェ振ってやるよぉ。
そしたら迷子になるまいよ。
だから。
安心して長生きせぇ。
「お前、馬鹿な奴だなぁ。女房置いて来ちまったのか?」
「良いんだよ。あいつはこれからやっと、手前の人生たっぷり楽しむんだからよ。」
「へぇ、何するんだい。」
「ゆーちゅー婆ぁとか言うとったなぁ。」
「へぇっ、何だいそりゃ楽しそうだ。」
「小さい孫も犬も鶏もおるからな。」
「相変わらず働き者だねぇ。」
「習い事もたんまりさ。」
「それより、どっちが早く走れるか競走しようぜ。」
「おうよ!」
#手を繋いで
自己防衛の為の癖は外すのに時間ぎ掛かる
そう彼が言った。
けれど、こうも言った。
癖は意識さえすれば少しずつだが外せるものだ。
例えば我慢。
何を我慢しているのかも分からない程の
無意識下で
もはや恒例となっている我慢。
そうする事で仕事をこなし
生活をこなす癖が付いている。
普通は気分転換やガス抜きをする。
けど無意識なら。
例えば食い縛り。
歯軋り、ぐるぐる思考、自己否定、その他沢山。
「分かったか?」
夫は手をぎゅっと繋いで聞いて来る。
「無意識に我慢のし過ぎだ。」
頷くだけで精一杯だった。
たった今から、無意識では無くなったからだ。
本当は我慢していた事が沢山有った。
あれもあれもこれも、苦手で嫌できらいだったのに全部我慢してやったんだ。
「分かったなら良い。ロールケーキ食べないか?」
何時もなら。我慢する。
さっきご飯を食べたばかりで、今日はお菓子を食べ過ぎた。
「我慢してるな?良いのか?美味そうなロールケーキを食いそびれるなんて、今晩夢に出て来るぞ?」
ーー食べた。
いっぱい食べた。
お腹いっぱい食べた。
夢にも出てきて欲しいくらい美味しかった!
「もう一本食べたい」
「そりゃ良かった。今度買いに行こうな。」