変わらない温度、焼かれるような毎日は永遠のように思っていた。
けれど終われば、それは一瞬、刹那の夢。
ほんの二ヶ月の、幻。
あんなに長いと思っていたのに、終わってしまった。
あんなに変わらないと思っていたのに、もう気配さえ残らない。
たくさんの希望と、たくさんの物語と、たくさんの思い出の詰まった時節。
ああ、君が手を振っていたのを覚えている。
——
夏
ずっと、空想をしていた。
常時見せられる現実は、あんまりにもやさしくないから。
ずっと、願っていた。
苦しい場所から、逃げ出すことを。
けれど、ああ、だんだんと、空想もできなくなってきて。
今日に至っては、日が落ちても、まだ空想の世界が作れない。
一体、全体、何処へ逃げれば、いいというのか。
暗闇の道へ飛び出して、あてどなく歩を進める。
夜の帳のもと、現実に疲れた足取りを、あのまんまるに輝くお月さまが導いてくれるような気がした。
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ここではないどこか
飛んでいるのだ。と錯覚した。
頭から風が吹きつけ、体の重みは、重力から解き放たれたように何も感じない。
きっと、あの自由に舞う鳥達も、こんな気持ちなのだろう。
過ぎ去る景色が真っ逆さまの街並みでなければ、これはきっと幸せだった。
これは罪、これは罰、これは救い、これは禁忌。
夢のような時間は終わって、現実が眼前に近付いて来る。
ああ、無情で当然、選択の果て。
ここに来て本能が猛烈に拒絶。全ての記憶をひっくり返して、全身を恐怖が駆け抜ける。
何もかもが遅い、そう、あの時だって、もし……。
……なんて、哀れで儚い、わたしの、
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落下
ざあざあ、雨が降る。
視界は単色に染まり、耳は白色雑音に包まれる。
そんなぼくの世界に現れる、鮮やかなきみ。
花のような歌声、眩いほどの青紫。
ぼくの中に色が現れる。
「……あら、またあなたなの」
「何度でも」
ぼくは、やはりきみが。
「ぼくの傍に居て欲しいのです」
「いいえ、だめよ、だめ。わたしはわたし以外の何者にだってなりたくないの」
「どうしても」
「どうしても。それとも、いっそ、ねぇ、」
きみが、顔を寄せる。
「わたしを食べて、しまってみる?」
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あじさい
空は白んで薄明の時、街は静かに目を覚ます。
走る列車の音、心臓の鼓動、切る風は呼気、朝露の匂い。
日は昇って旦明の時、照らされた街は動き出す。
人の音、車の音、混ざってごうごう、街の呼吸。
日が傾いて黄昏時、眠る支度を街は始める。
引きゆくざわめき、「また明日」の声、帰宅を促すカラスの呼びかけ。
日は落ち暗い宵の時、街は静かに寛いでいる。
少しの灯り、夜の民の歌、鉄の鳥が轟音で飛ぶ。
そして静まる未明の時、街はようやく眠りに就く。
あるのは虫達の話し声と、木の葉達の囁きだけ。
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「街」