「今日は雨、かな。」
朝起きて空を眺める。
灰色の雲が空一面に広がっている。
日曜。誰とも会う予定も、外に出る予定もない。
こんな日は、雨の音をBGMに読書でもしようか。
朝飯を食べ、リビングの本棚を吟味していた頃。
微かに、聞こえる。
幾つもの水滴が、地面に当たる音。
小説を本棚から手に取る。
自室に戻り、布団に入る。
ベッドに寝そべって、電気もつけていない、薄暗い部屋で本を読む。
徐々に強くなる雨の音。
読み終わってリビングに戻る。
別の本を手に取る。ついでに昼飯も軽く食べた。
自室に戻り、先程と同じように本を読む。
窓の隙間から吹く風が少し冷たくて心地いい。
気がつけば、空は紺色。
また、明日から学校だ。
今も雨は降り続ける。
それは、まるで…今の私の心を示しているように感じた。
『今日の心模様』
たとえ間違いだったとしても、これで良かった。
俺は、今死にかけている。
理由は単純。久々に外出した今日の昼、
後輩が信号無視の車に轢かれそうになっていた所を、
かっこつけて身代わりになったから。
まだ体が痛いが、大丈夫__と言える状態ではない。
ああ、とっくに死んだ幼馴染がいる……。
お迎えか……?
容姿端麗で文武両道でいろいろできた幼馴染は、俺に対し
『おいで』とでも言うように、手を差し伸べてきた。
ちなみに病室のベッドの近くには後輩がいる。
「先輩……なんで、なんでですか!!」
「………共倒れよりはましな筈だ、はは。」
神様、とりあえず後輩がやらかしたりしないようにできますかね?
____まあ、それはどうでもいいとして。
たとえ間違いだったとしても、これで良かった。
この一生の間は、そう想わせてください。
『たとえ間違いだったとしても』
苦しみなんていらない。
悲しさなんていらない。
不安なんていらない。
何もいらない、だから。
今は、この時間を大切にしたい。
『何もいらない』
いつからだろうか。
視界から色が盗られたのは。
___ボクの住んでる町では、『視界から色が無くなる』という奇病が発生している。
ボクも、発症してしまった。
そのことを知った時、ボクの目の前は真っ暗になった。
赤も、青も、黄色も、緑も、何もかも、見えない。
医者は、『いずれ目が見えなくなる』と言った。
治療法も確立されてない今、ボクは実質終わり。
ボクの家には、何も置いていない、今は有っても無くてもいい部屋がある。
壁も、床も、白い。
全て、全て、白い。
ボク以外の人にも、これは同じなんだ。
だから、そこで絵を描くことにした。
『色』がわからないなりに、描けるものがあるかも知れない。
___目の前が、本当に真っ暗になるまで___。
『無色の世界』
真夜中。
目が覚めた私は、窓から見える桜を見ていた。
雲で少し隠れた空の満月の光が、花が少なくなった桜を照らす。
私はずっと、動き行く空を横目に桜を見ていた。
その桜の木の花は、少し青っぽい、暗い色の空にだんだんと奪われるように散っていく。
散った花びらが、眩しい、早朝の出たばかりの太陽の前を何度も横切っていく。
遂に、花が無くなってしまった。
それと同時に、私は『残念だけど、しょうがない。』と思った。
私は、昔、こんな癖があった。
物に『~さん』や『~ちゃん』とつけていた。
今となっては馬鹿のようだが、あの何も知らない純粋な時だからこそできたことだろう。
じゃあね、桜ちゃん。また来年。
同時に、昔の友達のことを思い出した。
もう、会えないだろうけど。
人生も、桜のようだ。
『桜散る』