エクレールの中には空白がある。誰に言われた訳でもない、そんな気がするだけ。
その訳のわからない空白の中身を探す為に各所様々な場所へ行った。旅から旅。電車を適当に乗り継いで、今回は一面緑色であるこの場所に辿りつく。
風に乗って葉っぱと土の匂いがエクレールの背中を押す
誰かが待っている。早く行け。と
あてもなく歩いていると、道の脇に生えている木の下に座り込む銀色の髪の青年。俯いていて表情が見えない。体調が悪いのか、と思い声を掛けた。
「どうした。体調が悪いのか」
声をかけると驚いたのか、勢いよく顔を上げた。
エメラルドグリーンの瞳。宝石のようにキラキラと輝いて見える。
「‥‥いきなり声を掛けて悪かったな。そんなところで座り込んで、何か困り事か?」
自分の顔を見て固まっている青年に問いかける。
「あっ、あぁ、気にかけて頂きありがとうございます。何となく、ここまで歩いて来てしまって。少し歩き疲れてしまったので休憩中で」
「何事も無くて良かった。すまないが、一つ聞いて良いか。」
「僕に答えられることならば」
「ここには何がある。」
「その昔、女神のような存在が人々の魂を救済して回ったとか。噂程度ですが、そんなお伽話があるくらいで他には何も無いですよ。」
「教えてくれてありがとう。そうか。何故かこの先に進まないと行けない気がしてな。もう少し歩いてみるよ」
じゃあ、と手を振り歩き出そうとした瞬間、手首を掴まれる。
振り返ると青年は俯いていた。震える声で問いかけられる。
「あの、僕のこと、覚えていませんか」
その一言を聞いて理由もわからないままエクレールの心臓が大きな音を立てた。
《旅路の果てに》
きっかけは些細な言い合いだった
あなたはいつもそうだ。無茶して怪我して挙げ句の果てに、自分の身体だから口出すなと。わかってますよ。傷つこうが動かなくなろうが、あなたの身体ですし勝手です。それを止める権利すら僕に頂けないですか。こんなに貴方のことを想っているのに、いつも僕の一方通行です。
そういってホープは医務室を出て行った。
やってしまった、と額に手をやるライトニング。徹夜が続きおまけに任務明けでかなり疲れていた。情けなくも縫合を必要とするほどの怪我を負ってしまい、心配し駆けつけたホープに説教をされ、つい言い返してしまった。追いかけないと。
縫合した腕を庇いながらベッドを降りる。追いかけてどうする?謝る?
立ち止まるライトニング。もう一度ベッドに腰をかける。自分の心のようにギシッとベッドが鳴る。
何故ホープは怒っていた?表情は?
もう一度思い出す。
言わないと。私は、ホープに自分の気持ちを伝えていない。口出すなと怒っていただけだ。
勢いよくベッドを降り、痛む腕を庇うこともせず走る。ホープの背中が見えた。
ホープ!!!
驚いた顔で振り向くホープは待って、とライトニングを静止する。
そんなことを構うこともなくホープの腕を掴み壁側に寄せる。
すまない、勢いが強すぎた
まって、ライトさん、血が
それは後でいい。いいか、よく聞け。
さっきはすまなかった。
心配してくれていたのに、口を出すなと言ってしまった。
‥‥‥え?
本心ではないんだ。だが疲れで少し気が立っていた。心配してくれてありがとう。
そんなことを言いに血を流しながら走って来たんですか?
そんなこととは何だ!こっちは真剣に、
ライトニングの言葉はホープの笑い声に遮られる
もう、貴方は本当にめちゃくちゃだ。
もう一つ、言わないといけないことがある!
ずいっと顔を近づけるライトニング。
うーん、キスしたくなっちゃうんで離れてもらっていいですか?
ホープは胸ぐらを掴まれたままピンクに色付いたライトニングの頬をするりと撫でる
き、キスだと、、と狼狽えるながらも良いから黙って聞けとホープを睨む。
お前、自分の一方通行だと言ったな。
そうですね
一方通行ではない。と囁くような小さい声。それでもその言葉はホープの耳まではっきりと届く。
これでも、わたしもお前のことを想っている。物凄くだ。だから、一方通行だとか、言うな。
やっと掴んでいた胸ぐらを外してくれたライトニングをぎゅうっと力強く抱きしめる。
滲んできた血を見て我に帰りライトニングを抱え廊下を走るのはもう少し後のお話。
《(この想い)あなたに届けたい》
笑ってしまいそうな時に口元を隠すあなた
緊張すると何度も耳に髪の毛をかけようとする
嘘を付くと挙動不審になるところ
喧嘩っ早いのに、人の話は最後まで聞く
何でもできるのに絵は下手くそ
これからもたくさん、見せてくださいね
I love
《君のことが愛おしくてたまらない》
1人で街を歩く。いつもは目的地へ一直線。用事が済めば帰宅する。
今は僕の側には貴方が居る
それだけで街がキラキラと輝いて見える。
「ねえ、ライトさん。あれ見て下さい」
「あの服きっとあなたに似合います。入ってみましょう」
「疲れてませんか、あそこで一休みしましょう」
「まだお時間、大丈夫ですか」
一緒に居る時間を引き延ばす為、今日も僕は街を見回し理由を探す。
《街へ》
研究員たちの足音も過ぎ去った頃、真っ暗な廊下に一筋の光がさしていた
アカデミーの司令塔である、ホープ・エストハイムの執務室である。
現場に出ていたライトニングは報告書を提出する為に、開いていた扉をノックする。
中央の執務机にはたんまりと書類が乗っており、その間からひょこりとホープが顔をだす。
あ、ライトさん。こんな時間までお仕事ですか?お疲れ様です。
嬉しそうににっこりと笑い。慌てて駆け寄ってくる。
出会った頃より頭一つ分も大きくなってしまった男を見上げ
その言葉をそのまま返す。
過労死する気か?と眉を寄せる
目の下には隈、顔色も悪い
いつから寝ていない
えぇーっと、いつからだっけ
はは、と笑うホープの顎を掴みこちらに向ける
寝ろ。その状態で進めても効率が悪い。
あと少しで終わりそうなんですけれど、と頭を掻くホープの目が泳ぐ。目が合わない。そして、あの、少し、近いです。と呟く。
自分が出て行っても寝ずに仕事を続けそうなこのワーカーホリックの男をどうして寝かせようか。
物理的に寝かすか。と拳に力を入れると
なんか凄い怖いこと考えてませんか?と怯えるホープを見て、いや、何でも無い。気にするな。とだけ言う。気絶させると仕事はしないだろうが、明日に響いてしまいそうだな。ライトニングは考えを改める。
逃すまいとホープの顎を掴んだまま、当たりを見回すと寝心地の良さそうなソファが目に入った。これだ。ホープの腕を掴むとソファに座らせる、というより投げる。
いたた、暴力反対です
その上に馬乗りになるライトニング
暴力じゃない。優しさだ。
ライトニングは抵抗されないようホープの腕を片手で一括りにし、空いた手で器用にネクタイを引き抜く。ブラウスのボタンも幾つか外しておく。
え、あのっ、ライト、さん??
こんな、こんな場所で、待って、まだ、せめて、僕が上にっ
上?何の話だ。何をそんなに狼狽えている?寝ろ。寝るまでどかん。
え、あ。あぁ、びっくりした。僕、襲われるのかと。あの嫌ではなくて。本望ですが、ええっと
ホープは首まで赤くし目線もあちらこちらに飛んでいる
もう喋るな。寝ろ。
ライトニングはホープの拘束を解き、馬乗りのまま腕を組む
色々な意味で寝れないです。
歌でもうたってやろうか?
それは、かなり魅力的ですが、と言いながら力強くライトニングの腕を引く
油断していたライトニングはホープの胸で頬を打つ
お前、いい度胸だな
胸の上に落ちてきたライトニングを抱きしめるホープ。
大好きなライトニングの香り、暖かい、程よい重みとや柔らかさ。徹夜続きの脳には大打撃である。すぐ様、睡魔がやってくる。
すみません、少しだけ、
しばらくすると寝息が聞こえてくる。
ライトニングはため息をつくと、起こしてしまわないよう、そろりと起き上がるとホープに一つキスを落とす。そしてまた、ホープの胸に頬を預ける。
少しだけ
ホープは幸せな夢を見た。
愛おしそうに僕を見つめる、小さな頃からずっと思っている薔薇色の女性が、自ら口付けをーーーー
そこではっと目を覚ます。
夢、か。窓を見ると薄らと明るくなってきていた
随分寝てしまった。体を起こすと、彼女が着ていたコートが布団代わりに自分に掛けられており昨夜のことを思い出す。
あぁ、惜しいことをした。
だが、頭の中のモヤは晴れスッキリとしている。
やっぱり睡眠は大事だな。
大体、自分の限界を感じた頃にあの人はああやって、声をかけにきてくれる。だからといって自分を追い込んでいるわけではないが、気にかけてくれているようで、あの人の中には僕がいるようで嬉しく思う。
さぁ、寝てしまった分取り戻すか、と執務机に目をやると、昨日の散らかりが嘘だったかのように、綺麗に整頓されていた。
付箋が至る所に貼られている
固く形の整った字。ライトニングだ。
期限つきの書類は期限順に並んでおり、印鑑が必要な書類には丁寧に印鑑が押されている。放置していたファイルには種類順に丁寧に書類が分けて収納されてある。
なんて、できる人なんだ。
あの人事務職もできるのか?!
引き出しを開けると、大きめの文字で書かれたメモがあった。
最終チェックはしろ
今夜18時に迎えに行く。
その横に下手くそなモーグリの絵
さぁ、早く終わらせて、僕が迎えに行こう
優しいあの人を。
《優しさ》