夕焼けに教室が照らされる。ここには先生と僕しかいない。机を向かい合わせにして、くだらない話をする。
先生は、もうすでに僕の心を知っている。
「先生は僕のこと、どう思ってますか?」
僕は時折、先生を覗き込むようにして先生に質問をする。すると、先生はわざと僕から視線を外して窓の外を眺めた。
「そんなに必死になったって心なんて見えないさ。潔く諦めることだよ、少年」
先生はそう言ったけど、どうしても先生の横顔を見ると頬には紅が差しているようにしか見えなかった。
(心と心)
私は、この関係が終わりを迎えることを何よりも恐れている。「さよなら」が怖くて怖くてたまらない。
君とは恋人でもなんでもないけれど、友人というにはなんだかもどかしい。はたまた親友かと聞かれれば、そうでもないような気がする。
不思議と心地が良くて、型にはまらないような君との日々が大好きだ。
だから、私は「さよなら」は言わない。
「またね」
そう言えば、ずっとずっと君との、この付かず離れずの愛おしい日々が続くんだと思い込んで、今日の夜もきっと安心して眠りにつける。
(さよならは言わないで)
オレンジ色に染まる空
もうここに居ないはずの貴方
(光と闇の狭間で)
アルバムからひらひらと落ちた1枚の写真。
写真の中には仲良く肩を組んでいる少年が二人。
あの頃はこんなにも距離が近かったんだね。
(距離)
「ごめんね」
その一言で終わらせてしまったこと、ずっとずっと後悔してる。大人になったはずなのに、青春を取り零したせいでずっと心の奥底で泣いている。
大好きなものほど何故か手離してしまう人生。今日も、もう読む時間が無いからと、大事な本達を自分の手で売りに出してきた。
死神から寿命が宣告されてから一週間。それで、私が生きられるのも今日を含めてあと一週間らしい。
家への帰り道、空は橙色と桃色と薄紫色が混ざり合っている。賑やかな街中を迷いなく歩く。
視界の端に何かがうつった。私はその場で足を止めた。
一目でわかった。
一直線に走った。人違いだったらどうするんだとか、そういう考えは一切排除されていて、ただひたすらにあの子のもとへ走った。
はぁはぁと息を切らして、あの時と同じ距離であの子と顔を合わせる。
あの子が大粒の涙を落とした。アスファルトに黒いしみが増えていく。何も言わないで、しばらくあの子が私を抱きしめていた。それでも涙は止まらなかった。
「泣かないでよ」
「ごめんね」
そう言ったあの子は左手の薬指が光っていた。
あの子はどうやら幸せに生きているみたいで、私が過去に残した重荷が今の今下りてくれた。
なんだか本当に、私が死ぬ未来は近いのかもしれない。
どうか泣かないで。二人こうしてまた会えたから、私にはそれだけで十分な気がするの。
(泣かないで)