蒼暁

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「ごめんね」

 その一言で終わらせてしまったこと、ずっとずっと後悔してる。大人になったはずなのに、青春を取り零したせいでずっと心の奥底で泣いている。
 大好きなものほど何故か手離してしまう人生。今日も、もう読む時間が無いからと、大事な本達を自分の手で売りに出してきた。
 死神から寿命が宣告されてから一週間。それで、私が生きられるのも今日を含めてあと一週間らしい。
 家への帰り道、空は橙色と桃色と薄紫色が混ざり合っている。賑やかな街中を迷いなく歩く。
 視界の端に何かがうつった。私はその場で足を止めた。

 一目でわかった。

 一直線に走った。人違いだったらどうするんだとか、そういう考えは一切排除されていて、ただひたすらにあの子のもとへ走った。
 はぁはぁと息を切らして、あの時と同じ距離であの子と顔を合わせる。
 あの子が大粒の涙を落とした。アスファルトに黒いしみが増えていく。何も言わないで、しばらくあの子が私を抱きしめていた。それでも涙は止まらなかった。

「泣かないでよ」
 
「ごめんね」

 そう言ったあの子は左手の薬指が光っていた。
 あの子はどうやら幸せに生きているみたいで、私が過去に残した重荷が今の今下りてくれた。
 なんだか本当に、私が死ぬ未来は近いのかもしれない。


 どうか泣かないで。二人こうしてまた会えたから、私にはそれだけで十分な気がするの。

(泣かないで)

11/30/2023, 12:19:53 PM