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12/23/2024, 8:13:28 AM

『ゆずの香り』

彼女とすれ違ったとき、ふわっと、柑橘家の香りがした。
その爽やかで甘い香りに思わず振り返る。
去っていく彼女の長い髪から、微かな残り香が香る。
(香水、変えたのかな……)
昨日まではシトラスの香りのする香水をつけていたはずだ。
私はバッグから香水の小瓶を取り出し、手首に振りかける。
私の手首から、彼女と同じ柑橘の香りがした。
(ふふ、これでお揃いだね)
昨日の夕方、彼女は雑貨屋でこの香水を買っていた。
私も今日の朝、その店に立ち寄り、同じものを購入したのだった。
私から同じ香りがしたら、私が彼女のストーカーだってばれちゃうかな。
そんなことを考えながら、今日もゆずの香りを纏う彼女を目で追う。

12/19/2024, 7:41:22 AM

『冬は一緒に』

「今月も忙しいんですか?」
月末に一緒に遊ぼうと誘うも、仕事が忙しいと断られてしまい、私は拗ねて頬を膨らませた。
私と彼女は数年前から付き合っていて、今年結婚した。
同時に彼女も医大生から医者になり、日々病院に出勤していくようになった。
早朝から夜中まで働き、帰ってこない日もあった。
そんな多忙な彼女と比べ、未だ学生の私は、毎日暇で暇で仕方がない。
自分の時間はあり余っているのに、彼女と過ごせる時間はほんの少ししかないことがもどかしかった。
もう子供じゃないから、一緒にいてと無理を言って困らせるようなことはしない。
でも、やっぱり寂しかった。
そして案の定、今回の誘いも断られてしまった。
彼女も仕事があるから仕方ないことは分かっているけれど、今度こそは一緒に過ごしたくて、少し拗ねたような態度を取る。
そんな私を見て、彼女は小さい子供をあやすように小さく笑って、「冬は休み取れるから、一緒に過ごそう」と言ってくれた。
私は久しぶりに彼女と居られるのが嬉しくて、横に座る彼女に抱きついた。

12/17/2024, 12:51:08 AM

『風邪』

ピピピッ、ピピピッと体温計が鳴る音がする。
僕は気怠い体を無理やり起こして体温計を確認する。
38.2℃と表示されていた。
自分の体温を確認した瞬間、思い出したようにどっと体が重くなる。
「何度でした?」
部屋のクッションに足を組んで座っている彼が聞く。
『38.2℃……』
僕が絞り出すような声で言うと、彼は、やばいっすねw、といかにも他人事のように半笑いで答えた。
笑い事じゃない。こっちは必死だってのに。
少しむっとしながら、彼の方に背を向けてベッドに横たわる。
しかし、彼はそんな僕の様子など気にもしていないようで、なんか欲しい物ありますー?と間延びした声でたずねてくる。
『いや特にないですけど……ていうか、いつまでいるんですか?』
彼が僕の部屋に来てかれこれ二時間は経っている。
「もうちょっと居てもいいですかね?今お前の看病するって体で仕事抜けてきてるんすよね」
『……合法的にサボるために僕を使ったってわけですか』
「そうですね」
彼の性格から考えてそんなような気はしていたが、改めて聞くとつくづく最低な野郎だなと思う。
『……それ、彼女とかにやらない方がいいですよ』
「大丈夫です。友達すらいないので」
清々しい答えだ。
『そうですか』
まあたまには、こんな風に二人でいるのも悪くないかと思った。

12/15/2024, 2:20:34 AM

『イルミネーション』

12月になり、夜は色とりどりのイルミネーションが建物を彩るようになる。
私の町も例外ではなく、塾の帰りにふと窓の外を見ると、白い光に彩られたクリスマスツリーやら、青や緑のイルミネーションで描かれたサンタやらが目に映る。
私はそれらを、特に感慨を覚えることもなくただぼーっと眺めている。
ロマンチックな暖かい光よりも、都会ビルから漏れる光の方が、私は好きだった。
あの眩しくもどこか冷たさを覚えるような、夜の闇を吸い込んで発光する様がぞっとするくらい美しい。
私はその光を眺めながら、そこで暮らす人々の物語を想像する。
もしかしたら今見てる景色の中に、どんな小説よりもリアルでドラマチックな物語があるのかもしれない。
そう思うだけで、心底陶酔してしまう。
田舎暮らしの私も、いつか都心の方に住むことができたらいいな。

12/11/2024, 5:06:22 AM

『仲間』

「仲間」という言葉が私は昔から嫌いだった。
仲間なんだから協力しようよ。
仲間なんだから隠し事しないで話そうよ。
仲間なんだから、仲間なんだから……
周りの大人はそんなことばっかりだ。
私は思う。

で?
仲間だから何?
仲間なんて、大人たちが勝手に他人同士を集めて「仲間」って枠に押し込んだだけでしょ。
なんで「友達」でも「家族」でもない「仲間」と分かり合わなきゃいけないの?

でも今の私は、その「仲間」に適応するように毎日毎日作り笑いを浮かべて相手が好むような返答ばかりしている。
それでも心の中ではいつも、「仲間」という大雑把な言葉に違和感を抱いている。

これからも私は「仲間」の中で、個性を失くしていくのだろうか?

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