朝一の重めの会議 上司の顔色
交通渋滞 降るかも分からぬ雨のための傘
世界じゃ誰もが仮面をつけて 踊ってる
そんなこと気にせず 10分の休み時間で
ボールを蹴飛ばしていた ぼくら
明日に何があろうと コントローラを手にし
家族と ただ目の前のレースを 楽しんでいた
もうそんなことは そんな安心は 存在しない
きっと
僕らがもらった小さな命
か細いけれども なんとか紡いできたわけで
効くかも分からない安めのドリンク飲み干して
朝日がまた来やがったと 思いながら
寝癖を整え 仮面をつけて 玄関をしめる
履き慣れてしまった革靴の踵は すり減っていた
ファンヒーターから漂う灯油の匂いと
毎年聴いていても 飽きることのない
クリスマスソング
(今年もきっと君は来ないし
ラストクリスマス、なんて 言って
去年のクリスマスを思い出す)
イルミネーションが煌めく街に 少し心躍る僕ら
今年は何を贈ろう
オランダをテーマに作り込んだ街に入ると
木々も風車も何もかもが光に照らされていて
少し気の早いサンタクロースたちが
至るところで ポーズを決め込んでいた
◇
お目当てのレモンステーキは分厚くて
オニオンスープが意外と薄味だったのが
また良くて ゆったりとした時間が流れた
◇
ホテルからは海が見えた
少し暗い部屋の中 灯りをつけて
小さいサイズの人生ゲームで争う
約束手形が増えても 苛立たなくなったのは
僕らが大人になったからなのか
◇
朝食は 好きなものをたくさんとって
おかわりまでした
君は小さなケーキを 大切そうに食べていた
◇
雨でも 君はご機嫌で キラキラした街を
真剣に見つめていた
(カメラを見つめる僕とは 大違いだった)
そして お土産を買いすぎる僕たちは
似たもの同士だ
二度寝から目が覚めて 少し気だるい日曜の午後
何か口に入れる必要があるはずさ 重い足を動かす
近くのスーパーにある ちらし寿司でも買おう
◇
外に出ると 空が灰色に染まっている
目を凝らすと 微かに水滴がみえた
雨音はきこえない
だから 傘はいらないだろうと判断して歩き始めた
濡れながら歩いていると
ふと
亡くなった愛犬の小さな歩幅を思い出した
◇
目当てのちらし寿司は売り切れていたし
それなりに服は濡れたけれど
しとしとと降り続ける雨は 嫌いじゃなくて
隣にあった 2割引のカツ丼を手に取った
アーケード商店街を少し抜けた先に
3軒の古本屋が 点在している
その一つが 終わりを迎えるという記事をみた
◇
大学の頃は足繁く通い
(今では月に数度訪れる程度だったけれど)
くたびれた本たちの背表紙と睨めっこをし
不思議なコレクションを増やしていった
本屋では見たこともない本が そこにはあった
◇
その日 店の親父さんのもとに
馴染みの人らが 次々にやってきていた
聞こえてくる会話の中から 病が 理由と知った
◇
三島由紀夫の選集や いつ読むかわからないエッセイ
官能的な文学に 多分知らない詩人の詩集を買う
閉店セールで 安かった
くたびれた紙袋に入れてもらった
哀愁漂う、くたびれた紙袋から出てきた本たちは
本棚に入らず 床の上に積み重なっている