鶯になりたかった鳩

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8/2/2023, 11:25:50 AM

まだ冬の香りが残る頃
 
あなたは「桜が見たい」と呟いた

慌てて私は 桜の植木を 探しに走り回った

(——すでに覚悟はできている 頃だった)


近くの花屋 遠くの植木屋

寒さで耳が痛くなるほど 探し回った

車のドアの開け閉めに 飽きるほどだった


やっと 見つけた 小さな苗木

その枝は 細く 細く まっすぐと伸びていた

まだ春の兆しがなく 葉すら存在していなかった


すぐさま 医師に看護師に頼み込み 

そっと病室に持ち込んだ 桜の苗木

くすんだ茶色の枝と土の匂い

それでも

あなたも 私も 

そこに 満開の花びらを みた

8/2/2023, 9:26:32 AM

明日もし晴れたら 海に行こう

トンネルを抜けると そこには 

目が眩むような 砂浜



明日もし晴れたら 映画に行こう

開始5分で後悔しても B級でも

君と観れば 思い出なんだ


明日もし晴れたら 感謝でも伝えよう

気恥ずかしくて あまり言えなかったこと



明日もし晴れたら 素直になれるかもしれない

明日もし晴れたら 戦争が終わるかもしれない

明日晴れたら もう会えないかもしれない

明日の晴れを告げるラジオ 

「さようなら」すら伝えられず 

闇の中で 緑の機体だけが 

ぼんやりと 佇んでいた

だけれども 唯一の 味方のようだった

7/26/2023, 11:06:28 AM

すこし 前髪を切った
すれ違う人は皆 気がつくことはない

口紅のいろを すこし 明るくした
微笑まなくても 貴方ならわかるはずよ

誰かのためではなくて 貴方のために
一番の 可愛さを 表現したいの

少しのワガママくらい 許してちょうだい

なんて 心に秘めながら

今日も貴方に 会いにいく

7/25/2023, 11:28:38 AM

「師匠、あなたは鳥籠にいて幸せなのですか」
窓越しに、弟子の野良鶯がそう尋ねる。

「はたして、鳥籠にいる私は幸せか、
と問うているのだな」

「そうです。私は自由に羽を動かすことができ、
何にも縛られないのです」
弟子は真剣な眼差しで、師を見つめる。

「で、あるか。では、君は外敵もおらず、
好きな時に寝て、3度の飯も確保される空間に
いたいとは思わないのか」
師はそう述べると、自慢の羽を少し広げ、
クチバシでつくろった。

「それは真の自由とは言えないのです!
敵がいるということ、それは すなわち、
味方もいるということではありませんか。
今日の飯が確保されていないからこそ、
美味しさが増すと思うのです」
野良鶯は、その美しい響きをさらに響かせた。


—ガチャリ。
「あら、素敵な鶯さん、こんにちは。」
短髪の、ワンピース姿のお嬢さんが
野良鶯の姿を見ながら部屋に入ってきた。
その声には、野良鶯も敵わないほどの余韻があった。
瞳は少し野暮ったくあるものの、
それはちょうど垢抜ける直前にしかない、
短命な美しさでもあった。
彼女が鳥籠に近づくたび、部屋には
ふと爽やかな風が舞い込んだかのようだった。

師の飼い主である。
「さてピーちゃん、ご飯にしましょ、ほら、あーん」

野良鶯は飛び立った。
来世があるのであれば、確実に、
ペットを目指そうと己に誓った。

7/24/2023, 10:30:12 AM

夢のなかで 散歩をしよう
君は速かった 全力疾走の最中
ピンク色の舌が 笑みから溢れていた

夢のなかで ご飯をあげよう
君のお腹が 空かないように

夢のなかで たくさん触れよう
口角のあがっている君は 目を閉じている


トンネルを抜けると そこには海があるらしい——
君も僕も 不思議と 歩みが早くなる

波の音は 激しく (ザァ、ザァと表すべきだろう)
僕たちは 思わず 顔を見合わせた

海が見えた フナムシもいた
そして 君が リードを強く引っ張った


夢のなかで 毛を梳こう
赤茶の毛の艶が もっともっと 輝くように

夢のなかで 芸をしてくれないか
君の得意だった 「おかわり」を

君は助手席に乗って 景色を見ることが好きだった
窓に鼻までくっつけて 何を見ていたんだろう

上手にシートに腰掛ける君
僕は 鍵をロックした 「落ちないでね」


夢のなかで逢おう
君の大好きだった 公園で


「友情」

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