「師匠、あなたは鳥籠にいて幸せなのですか」
窓越しに、弟子の野良鶯がそう尋ねる。
「はたして、鳥籠にいる私は幸せか、
と問うているのだな」
「そうです。私は自由に羽を動かすことができ、
何にも縛られないのです」
弟子は真剣な眼差しで、師を見つめる。
「で、あるか。では、君は外敵もおらず、
好きな時に寝て、3度の飯も確保される空間に
いたいとは思わないのか」
師はそう述べると、自慢の羽を少し広げ、
クチバシでつくろった。
「それは真の自由とは言えないのです!
敵がいるということ、それは すなわち、
味方もいるということではありませんか。
今日の飯が確保されていないからこそ、
美味しさが増すと思うのです」
野良鶯は、その美しい響きをさらに響かせた。
—ガチャリ。
「あら、素敵な鶯さん、こんにちは。」
短髪の、ワンピース姿のお嬢さんが
野良鶯の姿を見ながら部屋に入ってきた。
その声には、野良鶯も敵わないほどの余韻があった。
瞳は少し野暮ったくあるものの、
それはちょうど垢抜ける直前にしかない、
短命な美しさでもあった。
彼女が鳥籠に近づくたび、部屋には
ふと爽やかな風が舞い込んだかのようだった。
師の飼い主である。
「さてピーちゃん、ご飯にしましょ、ほら、あーん」
野良鶯は飛び立った。
来世があるのであれば、確実に、
ペットを目指そうと己に誓った。
7/25/2023, 11:28:38 AM