瞳をとじて
瞳を閉じれば、あの瞬間がよみがえってくる。
声も、笑顔も、纏う空気感でさえありありと思い出せる。
さようなら。現実は残酷だ。
あの人はもう思い出の中にしか存在しないのだ。
明日に向かって歩く、でも
人生にはいくつもの選択肢がある。皆、その中から一つだけ選んで未来へ進んでいく。
それは自分も例外ではない。明日に向かって歩く、でもそれが正しいか、時折振り返る。
この決断を間違っていなかったと、未来の自分は言えるだろうか。
1枚の紙だけを置いて、今日わたしは家を出る。
ただひとりの君へ
気づけば、すっかり街は朽ち果てていた。
政府によって人間は兵器となった。それはわたしも例外ではなかった。
黒服の何者かに連れていかれ、そのまま意識を失った。目が覚めてからは両親がどこか一線を引いて接するようになった——それが何故なのか、知ってしまってからは覚えていない。
わたしの体は、多額の資金と引き替えに兵器にされたらしい。金に目が眩んだのか知らないが、両親はまさかわたしが帰ってくるとは思わなかったのだろう。
ただ朽ちた街。わたしの故郷はもうない。
わたしが、壊した。
このまま街と一緒にわたしも壊れればよかったのに。
ふと人の気配がして、そちらを見るとひとりの女性が一緒に来ないかと言った。差し伸ばされた手を躊躇いながら取ると、彼女は柔らかく微笑んだ。その笑みにはどこか覚悟が見えた。
もしかしたら、わたしをわたしと思ってくれる人は世界中でこの人だけかもしれない。
この人を傷つけてはいけない。そんな気がした。
***
1/13 まだ見ぬ景色の少女視点
手のひらの宇宙
回すときらきら模様が変わる万華鏡は、まるで手のひらの中にある小宇宙のよう。くるくると変わる世界のように、人の心も簡単に変わってしまうのだろうか。
あなたは今日も帰ってこない。
風のいたずら
ぶわ、と目の前を突風が通り過ぎた。今日は晴天ではあるが風が強く冷たい。肩を竦めながら風に逆らって歩く。天気予報の気温よりかなり寒く感じる。
「すみません!」
声と同時に風に乗って紙が飛んできた。どうやら楽譜のようだ。咄嗟に楽譜を拾って声の主に渡すと、長い髪をなびかせた彼女はそれを受け取りにこりと微笑んだ。
「ありがとうございます、助かります」
「練習頑張ってください」
どこかで見たことあるような彼女に別れを告げ、また風に向かって足を踏み出した。
後日、テレビの中で飛ばされた楽譜について話すアイドルを見て、ようやく気づいたのだった。