透明な涙
鋭い直球が通り過ぎ、バットが空をきると、熱く盛り上がっていた空気が一瞬沈黙した。審判がストライクをコールすると、わっと歓声が耳をつんざく。一気に夏の暑さが戻ってきた。
ああ終わったのだと、どこか冷静な自分の横で、普段は泣かないあの子が堪えきれずに零した涙は、どこまでも透明で綺麗だった。
ぼくたちの青春が終わった。
あなたのもとへ
「殺し屋」など最下層の人間の仕事だ。リスクと引替えに大きな報酬を得る。そうしなければ生活もできない。奴隷とはそういうものだ。
また、依頼のあった悪徳議員を手にかけた。あくまで殺人だと思われないような工作をして。
捕まれば自分の人生が終わる。
こんな綺麗じゃない自分が、あなたのもとへ帰っていいのだろうか。自問自答しても答えは出ない。
あなたはただ純粋な瞳で迎え入れてくれるのだ。
***
外木寸氏の「殺し屋やめたい!」のオマージュ。
そっと
晴れた日のテーマパークは人が多い。冬は空気が澄んで冷たく、それが清々しさを演出している。
どうしようかと手をさ迷わせる。前を歩く彼はこちらが迷っているのに気づいていないようだ。寒いを言い訳にしようか。それとも混んでるからと言おうか。
思い切って、そっと手を伸ばしてみた。こんなに手が冷たければ驚かせてしまうだろうか。
手がぶつかったとき、彼がこちらを振り返ってはにかんだ。
「寒いからこうしとこ」
握り直した手のひらは寒さに反してひどく熱く感じた。
まだ見ぬ景色
久しぶりに来た街はすっかり荒廃していた。
すべては人間を改造した兵器、改造人間を生み出した政府のせいだ。
多くの改造人間は人に紛れ、至るところで無差別に街を攻撃していた。この街もその襲撃にあったのだろう。ひどい有様だ。
「だれ」
か細い声に目をやると、そこには傷だらけの少女がじっとこちらを見ていた。
改造人間は人間と区別がつかない。倒れているのが人なのか、兵器なのか。だから誰もが見捨てていく。こんな幼い少女でさえ。
「あなた、この街の子?」
怯える少女は躊躇いがちに頷いた。近くに両親らしき人はいない。
「1人? 一緒に来る?」
わたしはこの子に殺されるかもしれない。だが、仮に彼女が兵器だったとしても、元は人間。感情はあるのだ。彼女の感情を制御すれば、あるいは。
「まだ見ぬ景色を見せてあげる」
手を差し伸べると、少女は徐にわたしの手を取った。
あなたを兵器にはさせない。
あの夢のつづきを
どうしたのと彼女が振り返る。無言で背後に立たれて驚いたようだった。別にどうかしたわけじゃない。
四葉のクローバーで作った指輪を交換して、あなたと結婚するのときらきらした笑顔で言い放った幼少時の夢。
ただ2人であの夢のつづきを見たいだけだ。
手の中にある本物の指輪はそれを叶えてくれるだろうか。