冬山210

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1/22/2025, 6:08:14 PM

『あなたへの贈り物』

私があなたから欲しいものはたくさんあるのに、
あなたが私から欲しいものなんてきっと一つもない。

私はあなたの声が欲しい。
顔が欲しい。
指が欲しい。
唇が欲しい。
黒子が欲しい。
皺が欲しい。
耳が欲しい。
鼻が欲しい。
歯が欲しい。
皮膚が欲しい。
心が欲しい。
内臓が欲しい。
その目が欲しい。
その目に私を映して欲しい。

これでもまだ全然足りない。
もっともっとあなたから欲しいものがある。

でもあなたからは私に何も与えてはくれないし、
私からは何も受け取ってはくれないのでしょう?
いつも私が勝手に享受しているだけで、
あなたに与えているつもりは全くないのだから。


あなたへの贈り物を選ぶとしたら、
ゲーム機か寿司か、愛犬のグッズでしょうか。
どれも喜んではくれるのでしょうね。
贈り主が誰であろうと、同じように。

1/18/2025, 7:03:21 PM

『手のひらの宇宙』

君の手のひらに宇宙を置いておいた。
ぎゅっと握りつぶしても良いし、
じっと見つめても良い。
そっと触っても、ぱっと手放しても良い。
宇宙は既に君のものだ。
君にはそれを好きなようにする権利がある。

けれどもどうか気をつけて。
分かっているとは思うけれど、この世は常に不可逆だ。
後悔も反省も受け付けない。
全ての責任は君にある。

そのことを踏まえた上で選んでくれ。
君は手のひらの宇宙をどうする?

1/16/2025, 12:55:12 PM

『透明な涙』

透明な涙をペロリと舐めた。
レモン汁の味がした。
酸っぱくて少し苦くて顔を歪めた。

「涙だっておいしくないでしょう、私」

そう言って君はまたレモン汁をこぼした。
僕はすかさず唐揚げを取り出し、
君の涙が床に落ちる前にキャッチした。
そうして食べた唐揚げは、
確かにレモン汁をかけた唐揚げの味がした。

「食べ方次第なんじゃない?
 僕だって生で食べられても美味しくないと思う。
 茹でて食べたら良い出汁出るかもしれないけど」

呆けた顔で僕を見つめる。
涙はもう止まっているようだった。

「君は多分、細かく刻んでふりかけみたいにしたら
 味のアクセントになって良いんじゃないかな。
 好きな人は好きだと思うよ」

そう伝えると、君は俯いて肩を震わせた。
また涙をこぼすのではないかと思い、
僕は咄嗟に唐揚げを取り出した。
しかしその予想は外れていたようだ。

「そっか……ふふ、そっか」

口元を隠しながら笑う。
僕は取り出した唐揚げを口に放り込んだ。
レモン汁をかけていない唐揚げの味がした。

1/15/2025, 6:14:19 PM

『あなたのもとへ』

私のことを知らないあなたに向けたとびきりの愛を
気持ち悪いくらいに受け入れ難く不必要な愛を
全くもって重くもなくありもしないような愛を
あなたの元へ届けたい。

それでどうにか私の愛をあなたが知ってくれたのなら、
それ以上のことはないのだ。

会えなくて良い。
触れなくて良い。
話せなくて良い。
ただあなたのもとへ愛を。
私という1人の人間があなたを愛していた証を
あなたの元へ届けさせて欲しい。

頭上に降り注ぐ花びらのように
誕生日のクラッカーのように
あなたの生を祝福する言葉になれば良い。

そんな私の想いをあなたの元へ、
届けることができたならどれほど。

12/1/2024, 11:00:45 AM

『距離』

何億光年離れた星に恋をしたり、
この世に存在しない架空の人に恋をしたり、
君って奴は手の届かない相手ばかりを好きになるなぁ。

もっと近くに目を向けてみては如何か。
そうしたらそんなに悩まなくて良くなるのに。

決して手の届かないものばかりを愛するのは、
永遠であってほしいと願うからなのかもしれないね。
この世に存在するものはいつか必ず失われるから、
決して失われないものに恋をしていたい。
それこそが永遠の愛である……と、思っているのか。

可哀想に。永遠の愛なんてどこにも無いのに、
君はそれを求めてしまったんだね。
求めてしまったからにはもう、
ずっと遠くを見るしかないんだね。

遠距離恋愛、遠距離も遠距離。
君は今日も遠くを見ている。
遠くの愛するものを見て、その距離に恋をしている。
隣の僕には見向きもせずに。

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