『夢を見てたい』
画面の向こうの貴方に、
紙面の向こうの貴方に、
いつかこの指で触れられる。
いつか名前を呼んでもらえる。
いつか、いつかと夢を見た。
叶うはずのない夢を見た。
ねぇ、もしもあの世が繋がっているならば、
そこで待っていてくれないか。
私はまだ当分生きてしまうだろうけれど、
いつかこの身が朽ちた時は
真っ先に貴方に逢いに行くから。
地獄の果てだって逢いに行くから。
そうしたらどうか私と触れ合って、
名前を呼び合って、
涙を
私の涙を拭って欲しい。
そんな夢を見ている。
そんな夢を見ていたい。
ずっとずっと貴方の夢に浸らせて。
『雪』
痛いくらいに冷たい空気。ひやりとした風。
雪が降る。
これからきっと雪が降るのだという気候。兆候。
もしも雪が降ったならどうしよう。
僕は折り畳み傘を持っていない。
『紅の記憶』
あの人のルージュを勝手に使った。
14歳になった春のことだった。
あの人が思っていたよりも早く帰ってきたものだから、
私はそれを隠すことができなかった。
紅くなった私の唇を見てあの人は、
少し目を見開いて驚いてから、
嬉しそうに微笑んだ。
いつか娘がメイクに興味を持って、
自分のメイク道具を勝手に使っちゃって……
なんてのをずっと夢に見てたの。
あの人は知らない。
私がどんな気持ちで貴方のルージュをつけたのかを。
私がどんな気持ちで貴方が普段使っているルージュに、
自分の唇をつけたのかを。
知らないんでしょう。そうでしょう。
私を娘のように扱うあの男は、
私の気持ちなんてこれっぽっちも分かっちゃいない。
『終わらない問い』
どうして死んでしまったの
どうして死んでしまったの
どうして死んでしまったの
生きていて欲しかった
どうして
どうして貴方がいない生活はこんなにも侘しいのだろう
どうして貴方がいないのに私は生きているのだろう
どうして
なんで
何の為に
『秘密の箱』
秘密の箱に詰めてしまった。貴方のこと。
もう目に入れたくはないから、
もう耳に入れたくもないから、
全部隠して見えないようにしようと思って、
箱に詰めてしまったの。
初めはやっぱり開けてしまおうかとも思った。
何度も閉じた蓋を開こうとした。
でもその度に我慢して、我慢して、我慢して、
いつの間にやら開けようと思うこともなくなっていた。
そうして秘密の箱は忘れられた。
秘密を知るたった一人の少女から忘れ去られた秘密の箱は、もう誰の記憶にも残っていない。
箱に詰められた彼の人がどうなったのか、
一体何処に隠されてしまったのか、
誰も何も知る由はない。