『巡り会えたら』
いつかいつの日にか
貴方とまた巡り会えたとしても、
私は貴方のことなんて忘れて
呑気に笑っているかもしれない。
その時はどうか頬を撫でてね。
貴方の手の温もりはきっと忘れないはずだから。
だけどもし、それでも私が気がつかなかったら。
その時はどうぞ私を殴って。
打って。蹴って。踏んで。切って。刺して。焼いて。
気が済むまで貴方の好きなようにして。
それでも気がつかないようなら、
きっとそれはもう私ではないのだわ。
だからその時は、ね、分かるでしょう。
その時は貴方がそれの心臓を止めるの。
それじゃあどうか、また巡り会えますように。
貴方の幸福を願っているわ。
『秋恋』
この季節、私は世界で一番美しく在れる。
どんなに強く輝いていたって、
見えなければ無いのと同じでしょう?
私だけがここに在る。
他の奴らなんて目じゃ無いわ。
今この場にいるものたちの中で、私が一番輝いている。
だからどうか目移りしないで
南の空を見つめなさい。
18番目の輝きだって、今ばかりは一等綺麗な筈だから。
秋の夜は魚の口に恋をする。
フォーマルハウトはすぐそこに。
『時間よ止まれ』
時間よ止まれと君が願うから、
世界の時計を壊してきた。
時計の針はもうどこも指していないよ。
秒分時間に囚われず、生きたいように生きたら良い。
混沌とした不規則な世界で、
君の時間は止まるのだろうか。
『鳥かご』
鳥かごの中から飛び出した鳥が、
いつかここに帰ってくるのではないかと思い、
せっせと水と餌の交換をしている彼女を
鳥かごの中に閉じ込めてしまいたいと思うのだ。
『星空』
あんなに愛した星々から、
「見たくもない」と目を逸らした
あの日をきっと僕は忘れない。
それは冬の日のことでした。
十八の私は、進路だなんだと
見たくもない現実ばかりを見せられいて、
大変疲弊しておりました。
学校帰り、駅から出た私はふと空を見上げ、
確かにその両目に星空を映したのです。
そこにはいつもの通り、
眩しく輝く星々がおりました。
普段なら「もっとよく見たい」と
瞳孔を開かせていたところです。
けれどその時、私の身体は初めて
星々に対して拒否反応を示しました。
「見たくない」
咄嗟に顔を背けました。
地面を見ながら歩きました。
そんな自分が惨めでなりませんでした。
星々の輝きが眩しくてたまらなかったあの日。
とてもじゃないが見ていられなかったあの日。
あんなに愛した星たちから、
目を逸らしてしまったあの日。
あの日をきっと僕は忘れない。
そうして今日も星空を眺める。