『梅雨』
梅の雨が降る季節があるらしいの。
どれかしら?
雨のように、
空からたくさんの梅の実が降ってくるのかしら?
それとも、
ひらひらと梅の花が舞い散る様子を雨に例えたのかしら?
はたまた、
梅の果汁が雨のように降り注いでいるのかしら?
「どれでもない」だなんて言わないでね。
これは空想上の『梅雨』の話。
『優しくしないで』
「これなぁに?」
純真ちゃんは何かを指差して言いました。
それは白くてふわふわしていて、
純真ちゃんが両手で抱えられるくらいの大きさのもの。
「それは“優しさ”だね。
触れていると、何だか心がぽかぽかしてくるだろう?」
「うん!ふわふわでぽかぽかで……これ好き!」
純真ちゃんは“優しさ”をぎゅっと抱きしめました。
ふわふわ、ぽかぽか、触れているだけで幸せな気持ちになります。純真ちゃんの頬も自然と緩みます。
「でも何でこんなところにあるの?本体さんは、これが嫌い??」
ここは心の奥の奥。
本体さんが固く閉ざしているところ。
普段は日の目を見ない薄暗いところ。
「君をここに閉じ込めたのと同じことだよ。
本体は君も“優しさ”も受け止められないんだ。
だから見えないように箱にしまって、
蓋をして深いところに隠してる」
「うーん……よくわかんない!」
「……まぁ、簡単に言えば本体は、
誰にも優しくされたくないんだろうね。
だから貰った“優しさ”をここに放り込んだ。
本体はこれを望んでいない……要らないものなんだ」
ここにあるのは綺麗なものだけ。
光の入らない暗い箱の中。
けれども眩しく輝いているのは、
きっと入っているものが原因なのでしょう。
「でも、こんなに幸せな気持ちになれるのに。
捨てちゃうなんて勿体無いよ」
純真ちゃんが“優しさ”を撫でると、
“優しさ”は少しだけ光を帯びました。
「捨てたんじゃないよ。
受け止められなかったんだ。
本体はこの“優しさ”をどう処理したら良いか分からなかったから、だから、ここに入れたんだ。
捨てるんだったらこんなところに仕舞ったりしない。
こんな心の奥底に、大事に大事に隠したりしない」
そう、ここは心の奥の奥。
決して外に出ることはない。
けれども、決して外からの攻撃を受けることもない。
ここはそんな特別な場所。
「本体はね、君や“優しさ”、
ここにある全てのものを嫌っているわけじゃないんだ。
本当は仲良くなりたいのかもしれない。
でも今はまだ、その時じゃない。
だけどいつか僕たちが必要になった時、
その時ここは開かれて、
僕らが日の目を見る時が来るのさ」
そう言って希望くんが“優しさ”に触れると、
それは弾け、綿毛のようにふわりふわりとあちこちへ飛んで行きました。
純真ちゃんはそれを見て希望を抱きました。
本体さんもいつかは、
この“優しさ”を抱きしめられる日が来るのだろうと。
『流れ星に願いを』
僕らを残して母は去る。
僕らは暖かい場所でくるくると回る。
不意に異物が近づいてきた。
異物を包む空気の層。
僕らがそこに飛び込むと、
僕らの体は熱く光出す。
すると何やら異物から、
得体の知れぬ視線を感じる。
何かが僕らを見つめている。
それらは僕らに願いを託す。
何かの想いに包まれながら、
僕らの体は燃え尽きる。
それは時に暴力的で、
それは時にあたたかく、
それは時に寂しいもの。
僕らの最期を看取る、あなたは誰?
『ルール』
生きとし生けるものにかせられた最大のルールは、
「生きましょう」なんじゃないのか。
生きなきゃいけないんだから、
健康的な生活を送らねばならないし、
死刑になるような罪を犯してはいけない。
過度なストレスからは逃げるべきだし、
あらゆる危険を避けるべきだし、
死なないよう最後まで足掻くべきだ。
生きれる限り生きるんだよ。
課せられて科せられてる枷だから。
生き方はさほど問題ではない。
『春爛漫』
開き切った土筆。
モンシロチョウ。
何年目かのムスカリ。
軒下の蜂の巣。
公園に響く子どもたちの声。
目を覚まさせる日差し。
生温い風。
リュックサックにお弁当。
水筒、帽子、レジャーシート。
菜の花畑を見に行こう。
学校に行ってるお姉ちゃんには内緒。
お父さんとお母さんと私、3人だけのピクニック。