冬山210

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『優しくしないで』


「これなぁに?」

純真ちゃんは何かを指差して言いました。
それは白くてふわふわしていて、
純真ちゃんが両手で抱えられるくらいの大きさのもの。

「それは“優しさ”だね。
触れていると、何だか心がぽかぽかしてくるだろう?」

「うん!ふわふわでぽかぽかで……これ好き!」

純真ちゃんは“優しさ”をぎゅっと抱きしめました。
ふわふわ、ぽかぽか、触れているだけで幸せな気持ちになります。純真ちゃんの頬も自然と緩みます。

「でも何でこんなところにあるの?本体さんは、これが嫌い??」

ここは心の奥の奥。
本体さんが固く閉ざしているところ。
普段は日の目を見ない薄暗いところ。

「君をここに閉じ込めたのと同じことだよ。
本体は君も“優しさ”も受け止められないんだ。
だから見えないように箱にしまって、
蓋をして深いところに隠してる」

「うーん……よくわかんない!」

「……まぁ、簡単に言えば本体は、
誰にも優しくされたくないんだろうね。
だから貰った“優しさ”をここに放り込んだ。
本体はこれを望んでいない……要らないものなんだ」

ここにあるのは綺麗なものだけ。
光の入らない暗い箱の中。
けれども眩しく輝いているのは、
きっと入っているものが原因なのでしょう。

「でも、こんなに幸せな気持ちになれるのに。
捨てちゃうなんて勿体無いよ」

純真ちゃんが“優しさ”を撫でると、
“優しさ”は少しだけ光を帯びました。

「捨てたんじゃないよ。
受け止められなかったんだ。
本体はこの“優しさ”をどう処理したら良いか分からなかったから、だから、ここに入れたんだ。
捨てるんだったらこんなところに仕舞ったりしない。
こんな心の奥底に、大事に大事に隠したりしない」

そう、ここは心の奥の奥。
決して外に出ることはない。
けれども、決して外からの攻撃を受けることもない。
ここはそんな特別な場所。

「本体はね、君や“優しさ”、
ここにある全てのものを嫌っているわけじゃないんだ。
本当は仲良くなりたいのかもしれない。
でも今はまだ、その時じゃない。
だけどいつか僕たちが必要になった時、
その時ここは開かれて、
僕らが日の目を見る時が来るのさ」

そう言って希望くんが“優しさ”に触れると、
それは弾け、綿毛のようにふわりふわりとあちこちへ飛んで行きました。

純真ちゃんはそれを見て希望を抱きました。
本体さんもいつかは、
この“優しさ”を抱きしめられる日が来るのだろうと。

5/3/2023, 6:26:55 AM