『窓越しに見えるのは』
冬の夜に空を見よう。
灯を消して、カーテンの隙間から外を覗くの。
だんだんと目が慣れてくる……ほら、星が見えた。
分かりやすいでしょう?
オリオン座、おおいぬ座、こいぬ座。
容易く結べる三角形。
星々の輝きがあまりにも綺麗で、私の目は冴えていく。
もっと見たい。もっと近くで星を見たい。
そんな思いから目を凝らす。
窓枠に手をついて、首が痛くなるくらい上を見て、
ただその輝きに目を奪われ、星へ星へと近づくの。
けれど、私と星の間には窓がある。
星へ近づこうとしても実際に近づくのは窓だ。
やがて、
私は窓に唇をぶつける。
私は窓にキスをする。
私は窓越しの星にキスをするの。
窓越しに見えるのは愛しい光。
何光年先で輝く神々しい光。
『赤い糸』
薬指切ったら血が出てきたの。
ぽたぽたと垂れた血液で線が描けたから、
そのまま貴方の薬指に絡ませた。
ぎゅっと握ると少し痛かったけど、
ちゃんと私の血で輪っかを作ったの。
貴方が私に指輪をくれないから、
私が貴方に指輪をあげる。
ねぇ、赤い糸みたい。
これでやっと繋がれたね。
きっとこの糸は一生切れない。
『ここではないどこかで』
此処ではない何処かで、私を抱きしめてくれた。
此処ではない何処かで、存在してくれた。
此処ではない何処かで、また会おうと約束をした。
此処ではない何処かで、命をかけた戦いをした。
此処ではない何処かで、選択を迫られた。
此処ではない何処かで、愛する人たちに会えた。
全ては夢の中での出来事だった。
実在しない場所、実在しない人、偽りの記憶。
私の脳が無意識に作り出した架空の世界は、
この世の何処よりも居心地が良かった。
けれども其処へ行けるのは一度きりで、
昨日見た夢の続きを今日見ることはできないのです。
この世の何処にも存在しない貴方には、
もう二度と逢うことはできないのです。
叶うことなら、此処ではない何処かで、
もう一度だけ貴方に逢いたい。
『好きな色』
「何色が好き?」
そう聞かれたら、昔の私は即答できただろう。
ピンク色が好きだった。
だからランドセルはピンク色を選んだ。
姉は濃いピンクだったけど、私は薄いピンクを選んだ。
この頃からパステルカラーが好きだったんだね。
今はもう、何色が好きかと聞かれても、悩んでしまう。
ピンク色は変わらず好きだ。
でも、紫色も好きだ。
青色も水色も、緑色も黄緑色も、赤色も橙色も黄色も、黒色も灰色も白色も茶色も金色も銀色も、全部好きだ。
一つは選べない。
中でもパステルカラーや薄い色の方が好きだ。
蛍光色も好き。暗めの色はあまり好きじゃないかな。
組み合わせが最高に好きな色もある。
青色と白色、赤色と黒色、水色とピンク色、
黒色とピンク色、紫色とピンク色、茶色と黄色……。
何色だって好きだ。
好きな理由は様々だけど、その気持ちは本物だ。
『落下』
落下していく。落ちていく。
どこまでも、どこまでも、どこまでも、堕ちていく。
このままでは苦しくて、息ができなくて苦しくて、
嫌なんだ。
落ちるのは嫌なんだ。
でも、ただ一つだけ、落ちたい場所がある。
私はそこへ落ちていきたい。
そこへ落ちることを夢見ている。
いつか重力がひっくり返って、月か何かに引き寄せられて、私はそこへ落ちていく。
私は空へ落ちていく。
きっとそこでも息はできない。
苦しいことに変わりはない。
それでも空へ行けるなら、愛する空へ落ちれるのなら、この身がどうなろうと構わない。
青空だって夕焼けだって、星空だって構わない。
そこへ落ちて、そこへ溶けて、私は空になりたいの。
落下先は空が良いよね。