『真夜中』
皆が寝ている時間。
一人起きているのは楽しいさ。
それでいて寂しいさ。
時折、世界があまりにも静かで、もしかしたらこの世界には自分しかいないんじゃないかと不安になる。
そんな時に聞こえるバイクの音が有難い。
いつも新聞を届けてくれてありがとう。
私がこうして夜更かしをしている間も、世界のどこかで誰かが働いている。
私は一人ぼっちなんかじゃないんだ。
『後悔』
よく考えずに貴方を求めてしまった。
初めて自分に好意を抱いてくれた存在を手放したくなくて、貴方に恋をしようとした。
付き合うということがどういうことなのか、貴方が私に何を求めているのか、何も考えてなかった。
貴方のおかげで私は、自分には恋ができないのだということに気づけた。誰かと付き合うことはできないのだと分かった。得たものがあった。
けれども貴方は失っただけだ。
私は私のエゴで貴方を引き止めて、貴方を困らせて、悩ませて、傷つけて、貴方の貴重な時間を奪った。
そのくせ一言も謝れていない。
「ありがとう」と伝えるので精一杯だった。
私の後悔は貴方を選んだことだ。
私の後悔は貴方に関わったことだ。
私の後悔は貴方に好かれたことだ。
私の後悔は貴方に謝れなかったことだ。
ごめんなさい、七月の矢車菊。
『モンシロチョウ』
例え君がこれから美しくなるのだとしても、
私は蛹に至るまでの君を愛することはできない。
蛹ですら気味が悪いと思うよ。
蝶々、蝶々。
私は君というモチーフが好きだ。
けれども本物の君は好きじゃない。
君が虫である限り、僕が僕である限り、嫌いだ。
しかし、春を告げるように舞う白や黄の君よ。
君が舞うから私は春が分かるのだ。
君が舞うから私は、君を追いかけたありし日の私を想うのだ。
虫取り網と籠を持って、公園へ駆けて行った。
時には姉上と共に。時には一人で。
きっと君を追う時間は楽しかったのだろうな。
『一年後』
いい加減覚悟ができただろうか。
どうせ自ら消える勇気などないのだから、
さっさとこの世界で生きる覚悟を決めた方が良い。
ゼミはどうだ。苦しいだろう。消えたいよな。
単位は大丈夫か?卒業できそうか?資格は?
お前は何の仕事に就くんだ。就職できるのか?
無理だよな。嫌だよな。消えたいよな。分かるよ。
たった一年で俺が変われるはずがない。
だから一年後も俺は駄目なままだ。
甘ったれてるし役立たずだし、多分社会に出ないほうが世界のためなんだけど、世間体を気にしちゃうから社会に出るんだよな。
まぁ、生きててくれ。
一年後も俺は生きてるはずなんだ。
『君と出逢ってから、私は・・・』
君と出逢ってから、私は私の世界を広げた。
始まりは私だった。君は私だった。
私は私を主人公にして物語を書いた。
君は私の理想を詰め込んだ嘘みたいな女の子。
冗談みたいでぶっ飛んでいて、きらきらしてた女の子。
他人からすれば黒歴史みたいなもんだけど、
私は君を忘れたりなんかしない。
君の物語を無かったことになんてしない。
だって君は私で、私は君なんだから。
あのとき君と出逢ったから、
私は今でも物語を書くのが好きなんだ。
君はもう、主人公ではないけれど。