まだ放課後すら無縁の幼い頃に、よく遊んでいた子がいた。
補助輪がやっと外れて少し遠くに行けるようになって、
おばあちゃんに連れられて行っていた公園に一人で行けるようになった。歩いて12,3分くらいの、春は桜が咲く大きな公園。
そこで私はその子にであった。
その子はいつもブランコに乗っていて、
隣のブランコに私が座ったのがはじまり。
遠い記憶だから、どうして仲良くなったのかも何をして遊んでいたかも覚えていないけれど、家からこっそりお菓子を持ち出して二人で食べてたなぁ。チューイングキャンディとか棒付きキャンディとか、あの子はよくサイコロの形をしたキャラメルをくれた。スナック菓子はなかったな。
子どもながらに汚しちゃいけないと思っていたのかもしれない。
私が公園に着く前にはブランコにいるから、多分、近所の子。
弟が生まれたばっかりで、お母さんが構ってくれなくて暇って言ってた。名前はひなちゃん。知ってることはそれくらい。
でも、ひなちゃんと居るのは楽しい。それだけで良かった。
ひなちゃんは人見知りで、私以外と遊ばない。でも私が他の子に声をかけて鬼ごっことか、だるまさんとかに誘えばひなちゃんはブランコから降りてくれる。それが、優越感があった。
私のともだちって感じがして。
いつでもブランコに乗って待っているから、
1度、先に公園に待ち伏せしてひなちゃんを出迎えようと思って早めに行ってみたけど、その日ひなちゃんは来なかった。
それからひなちゃんと遊ぶ時間が伸びていった。
もともと待ち伏せしたのだって、もっと長くひなちゃんと居たかったからだ。1時間遊んだらバイバイしていたのが、16時まで、17時までと伸びていった。
信頼されているのか門限を決めなかった母親が心配するほど、夕日が沈むギリギリまで私はひなちゃんと遊んでいた。
『暗くなる前に帰ってくるのよ』
そう言われていたのに、あたりが寒くなってきたからか、日が落ちるのが早くなってすっかり空の上の方が暗くなっていた。真っ白い三日月が見えてくる。夜が来てしまう。
『帰らなきゃ』と思ってひなちゃんに声をかける。
すると初めてひなちゃんに引き止められた。
「もうちょっと一緒にいたいな」
いつの間にか、公園には私とひなちゃんしかいない。
学校帰りのお姉さん達の声も聞こえない。
いやというほど静かで、まるで私とひなちゃんしか居なくなってしまったみたいだった。
風で揺れる木がなんだか怖くて、大好きなひなちゃんのことを怖いと思ってしまう自分がイヤで、
「ごめん!わたしかえる!」とブランコから降りる。
するとひなちゃんは眉を下げて「困らせてごめんね、バイバイ」と手を振った。
ひなちゃんを傷つけてしまったことがショックで、居てもたってもいられなくなって、自転車に乗るのも忘れて走り出す。
大通りに出ると下校中の小学生のガヤガヤした声が聞こえてきて、ほっとした。
『夕日が沈む』
家に帰るとお母さんが泣きながら抱きしめてきた。
いつもの公園にもいないから心配したと怒られた。
じゃあ私はどこにいたんだろう。
あれからあの公園に行っても、ひなちゃんには会えなかった。
あの子は誰だったんだろう。
作者の自我コーナー
夕方は誰そ彼時とも言いますよね。そんなお話です。
どこがとは言いませんが実体験を基にしました。
居ませんでした?公園でしか会わない友達って。
私はよく年下と遊んでいたので、高学年の時仲良くしてた子が学校に入学してきたみたいなことがざらにありました。
光に当たると茶色く見える瞳と目が合った。
グッと顔が近づいてチュッと音を立てて離れる。
俺の驚いた顔に満足げに形の良い唇が弧を描く。
いつもなら耳まで赤くして逸らすのに、
一体どこでスイッチが入ったんやろか。
随分と長い付き合いになるけど、未だに分からへん。
たわいの話をしていただけなのに、
そりゃ柔こい笑みを浮かべるから見とれてしもたけども。
それのどこに温かい目がギラギラと輝く要素があるんや。
いつもより低い声が名前を呼んだ。腰がずくりと重たくなる。
耳許で煽ってるん?と囁かれる。
なんも言うてないのに、そんな器用なこと出来るかいなと睨んだ。
『君の目を見つめると』
君のスイッチが入る、僕のスイッチが入れられる。
(相互作用)
作者の自我コーナー
いつもの
ちょっと背後注意な話ですね。
ずっとお互いの顔が好きを公言してる方達が好きです。
あいつの目ってめっちゃ綺麗やねん!
きゅるきゅるしてて子犬みたいで可愛いがどうしても先行してまうんやけど。
キラキラと澄んでいて星空みたいやなって、思う。
全然ほんまの星には興味無いんやけど。
それを本人に言うたら、あいつは「それはあんたがほんまの星空見た事ないからや」って言いやがった。
素直に喜べや。褒めてんねんぞ。
「満天の星空って綺麗やねんで」
と風景を思い出しているのか、目をキラキラと輝かせる。
「いつか見てほしいわ、感動するくらい綺麗やねんから」
それやったら常に俺は感動してるわ。
汚い大人たちを見ても、全く濁らないお前の瞳に。
そして、月日は経ち。
俺はなんだか気恥ずかしくなって、あいつの目を見れなくった。いや、見てはいる。
目を合わせられなくなった。でも好きなんに変わりはないから、気づかれないように見ている。ガン見。でも俺が盗み見上手いんか知らんけど、あいつ全然気付かへんねん。
しょうもないスキルだけは身に付いていく。
汚い大人になっても相変わらず、こいつの目は濁らへん。
綺麗なもんや。肺とスケジュールは真っ黒やのに。
そんなある日、友人達とキャンプに行った。
あいつも一緒や。俺とあいつが友人やからなのか、俺とあいつに共通の友人が居るからなんかは分からん。
みんなでテント立てて、BBQして、酒を飲んで、片付けして、酒飲んでおやすみー言うて、酒飲んで、ふと空を見た。
確かに空気が澄んでいるから、空が綺麗だ。
でも目が慣れていないからかそんなに星は見えない。
「綺麗やな」
いつの間にか隣に来ていたあいつが星を見上げながら言う。
思わず息を飲んだ。星空だ。
あいつの瞳にはこんなに沢山星が見えているのか。
確かにこれは、
「綺麗やな」
流石にお前の瞳が、とはクサすぎて言えへんかったけど。
『星空の下で』
作者の自我コーナー
いつもの。
何だかずっと目の話を書いている気がします。
それほど彼らにとって目がキーワードなんですよね。
目が澄んでいたらきっと星空もより綺麗に瞳に宿るんだろうなぁ。作者の目は充血気味ですが。
こんな時間まで書いてるからですね。
昔はよく一緒に居た。
ニコイチと言われて、よくあるセット売り。
別にそれでよかった。俺にはなんの取り柄もないから、
綺麗で面白い彼にくっついているしかなかったのだ。
彼は何故かそれを良しとしてくれた。何かあったんだろうな、彼なりのメリットって奴が。
いや、彼は優しいから俺のように打算的ではないか。
彼は自分より弱いものに優しいから、すぐに慕われる先輩になった。ただくっついていただけの俺は彼の相方に繰り上げ当選した。実力は見合っていなかった。もう彼はくっついているだけを許してはくれない。繰り上げ当選とはいえ、俺は彼の相方になったから。
彼の少し後ろを歩いてた俺の特等席は彼の正面になった。
対等、というのは烏滸がましいが、対等に見られることが多くなった。ようやく彼に何かしらを返せた気がした。
もっと役に立ちたくて、俺は彼から自立しようとした。
彼は何故かそれをあまり良しとはしないようだった。
あんたの相方で居るために俺はあんたから離れた、
精神的にも、物理的にも。もう今では目も合わない。
でもそれでいい。俺が望んだことだ。
あの頃思い描いたら未来とは少し違う気がするが、
ずっと一緒に居る気がするというのは近からずも遠からずだ。
隣にはいないけど、未だにときどきセット売りされるのはドキッとする。
嗚呼まだ世間様に自分は彼の隣を認められているのだと。
もう俺の特等席は彼の正面ではない、彼と反対の端っこだ。
対等の代償が彼との距離であった。でもそれでいい。
まだ、追いかけていた頃にずっと見ていた俺の1等好きな綺麗なキミの横顔がここならよく見えるから。
近くに居た時は照れて、じっと見させてもらなかったからね。
『それでいい』
作者の自我コーナー
いつもの。
ずっとセットで居てくれる彼らが大好きです。
近いだけがいい関係ではないんだなということを教えてくれた二人。
いつもとは打って変わって自分語りをしようと思います。
タイトル通り独白です。
私はあまり他人の目を気にしません。よく思われていようが、悪く思われていようがどうだっていいです。見た目も性格も。
良くも悪くも自分は自分だと思っています。
でも1つだけ気にしてしまうことがあります。
期待の眼差し、それもたった1人の。
正確には眼差されたことはないのかもしれません。
だけど、確かに私はあの人の期待に応えることが出来なかった。きっともう失望されていると思います。
期待に応えたかった訳でもありません。
失望されたことに対してもなんとも思いません。
元々私に夢を見すぎなのです。あの人を孫バカと認識したことはないですが、おそらくそうだったのでしょう。
少し話が変わりますが、あの人が何も無いのにお小遣いをくれた時に、私はあの人がもうすぐ死ぬのかと思いました。
全然未だにピンピンしていますが。
それくらい有り得ないことだったのです。
ただであの人がお小遣いを渡すことが。
『なにか自慢が出来ることがあれば』お小遣いをくれる人でした。
『成績が学年で1位だった』とか『テストで100点100枚取った』とか『泳げるようになった』とか。
内容の大小は問わず、本人が自慢出来ると思えば何でもよいのですが。これが小学校や中学校の頃はいいのですが、
高校になるとなかなか自慢出来ることってなくなっていって、
そもそもアイデンティティすら分からないのですからなおのことなんですけど。
自慢出来ることが分からなくなって、挫折を覚えました。
それくらいの時期だったと思います。あの人がタダでお小遣いをくれるようになったのは。
あ、もう『こいつに自慢出来ることなんてない』って思われたんだ。って、考えすぎなのは分かってるんですけど、お小遣いを貰うのが怖くなって。
また、逆にお年玉が年々増えていくのも奇妙で。
年賀状のナンプレを解かなかったらくれなかったお年玉を何も無く、いつも頑張ってるからなんて言いやがって。
御祝儀袋に入ってる枚数が1枚じゃなくなったときは返すと泣き叫んだことを覚えています。
気味が悪かった、怖かったのです。
あの人が高校受験を失敗した私をどう思っているかが。
結局返しに行こうとした所を母親に止められて、全額図書カードに換えました。現金として持っていたくなかった。
図書カードにしたところで、数年経った今でも使えていません。貯まっていくばかりです。
自慢出来ることが何一つない私には使う権限がない気がして。多分、後ろめたいのだと思います。頑張れない自分が。
ただの1万円札がプレッシャーになるほどに。
お目汚し失礼いたしました。