好きだと抱きしめると彼は困ったように笑って、
「何言ってんの」と言った。
こんなことでしか素直になれないんだから自分のことながらどうしようもない。ねえ知ってる?エイプリルフールは午前までなんだって。今は何時だったっけ?
好きだと抱きしめられた。いちいちこんなので高鳴る鼓動が煩わしい。今日がこんな日じゃなかったらよかったのに。
そうしたら・・なんて考えてしまう。本当に馬鹿みたい。
『四月馬鹿(エイプリルフール)』
作者の自我コーナー
以前別サイトで書いた話のサルベージです。
超SS。超絶拗らせ両片想いが好きなのは今も昔も変わらないってことですね。
幸せになってほしいと思っていた。
彼は子ども好きで面倒見がいいから、
きっといい父親になる。
まぁ彼女に対する条件は厳しいけれど、
この歳になってからは大分丸くなった。
『俺のことをずっと好きでいてくれる人』は
さすがに条件ガバガバ過ぎると思うけど。
照れ屋であまり言葉にはしないけど、
頑固一徹で一途だからきっと彼を選んだ人は幸せになれる。
あまり求めすぎたら、キャパオーバーになって拗ねてしまうけど。そういう彼の子どもっぽいところも愛してくれたら。
彼は幸せになるべき人だから。
だから勝手に幸せになってほしいのに。
『好きや。ずっと前から』
『20年諦めようとしてあかんかったらもう無理やろ』
『年齢とか性別とか世間体とかどうだっていい、
お前と居りたいねん、俺は』
どうして、
「俺の幸せとか考えんといて。ヒナがどうしたいか教えてや。俺の幸せがヒナの幸せなんて逃げんといて」
壁に背中が当たる。精神的にも物理的にも逃げ道を塞がれてしまった。
本当に狡い人だ、あんたは。
俺の気持ちなんて分かりきっているかのように振舞って。
『勝手に俺の幸せを決めんといて。俺の幸せはヒナと作るもんや』
ぐいと手を引き寄せられて掌に柔らかな唇が押し付けられた。
「なぁ、俺を選んで。幸せな俺じゃなくて、子ども抱いてる俺じゃなくて、しわしわなってもヒナと居る俺を選んで」
幸せになって欲しいのだ、
大切な人だからーー愛している人だから。
真っ当に祝福を受けてほしい。
顔真っ赤にして嫁のことを弄られて、
そんなあんたが思い浮かぶのに。
なのに、俺はその手を振り払えない。
(狡いのはどっち)
『幸せに』なってほしい、はずなのに
作者の自我コーナー
いつもの
片方を男らしくしたかったので女々しくなってしまいました反省ですね。
お嫁さんの目の鱗を落とす人は旦那さんであってほしい。
お互いのことを無自覚のうちに掬い上げる二人が好きです。
何度も否定しようとした。
気のせいだと、勘違いだと思おうとした。
何度も相手を他に作った、違う人を愛そうとした。
何度も諦めようとした。
どうせ叶わないと、捨てようとした。
持っていたってどうしようも無いのだから。
だけど、お前が俺の名前を呼ぶだけで、
俺と目を合わせるだけで、笑っているだけで、
ただそれだけのことで
またお前に不毛な恋をする、してしまう。
『何気ないふり』をまた、俺は繰り返す。
ーーこの恋が、消え失せるまで。
作者の自我コーナー
いつものショートです。久しぶりにタイトル通り独白。
冷めるじゃなくて消失がポイントです。
何年かぶりに同郷の先輩から会えないかと連絡が来た。
会いたいのは山々だが海外出張中だったので、
向こうからの要望でビデオ通話になった。
デスクトップを立ち上げ、外付けのマイクとカメラを起動する。この4、5年で慣れた動作だ。
昔なら面倒くさかったが、これが当たり前になっている今は
重宝している。
招待がかかった。リンクを開くと逆さになった先輩が写った。
「先輩逆さになってます」
『え逆さ?これどうやって治すん?うわっ、左右反転なってもうた!』
相変わらずのパソコン音痴っぷりだ。俺に実害がないからだろうか、ほっとする。世間は変わってもこの人は変わらない。
オンラインミーティングとかそれで出来たんだろうか?
その疑問はすぐに解消されることとなる。
『うわどうしよ壊したかな……しんじさーん!画面が反対なってんけどどないしたらいいんやろ〜』
誰を呼んでいるんだろうか、確か先輩は一人暮らしだったはず、結婚したとか?なるほど話したかったことはそれか。
『どうした?ああ、カメラの向きが逆だな』
どこかで聞いたことのある男性の声がする。
いや、でもそんな訳ないよな。ここは職場では無いし。
カメラを調整しているのか映像が切られて音声だけになる。
『本当にきみはスライドショーの扱いといい、機械苦手だね』
『だから俺、営業の方が向いてるって言うたやん!』
…………そんなまさかがあった。あれは部長の声だ。
え、部長と先輩一緒に住んでるのか?それにしても先輩思いっきり部長にタメ口……というか、名前を呼んでいた気が。
『すまなかったね、見苦しいところをお見せして』
映像が復帰したと同時に先輩とは違う、眼鏡を掛けた男性が現れた。
部長だった、左手の指輪がなくなっていたが、確かに部長だった。
「ご無沙汰しております、部長」
『堅苦しい挨拶は抜きにしよう、今日はプライベートの場だろう?』
「は、はい」
とは言え直属の上司に対して寛げる訳もない。先輩が戻ってくるのを今か今かと待っていると何やら箱を取りだした。
『ごめんなぁ、忙しいのに付き合わせて』
「いやいや俺も連絡取りたかったんで……、でお2人って…」
『気づいた?』
「誰でも気づきますよ、こんなの。……やっぱり今日の電話って」
『それはそうなんやけど、それだけとちゃうねん今日は、お前に証人になってほしくて』
「『証人?』?」
声が重なる。部長も首を傾げている。
おい、報連相どうなってんだ。
『信治、いや村山信治さん。俺と家族になってください』
『…………え、』
箱を開くと腕時計が飾られていた。
あ、先輩も同じのつけてる。ペアウォッチって奴か。
なかなか洒落たことするなぁ、先輩。
部長はなかなか状況を把握しきれていないようだ。
才気煥発、泰然自若な部長にしては珍しい。
こういうのも先輩にとってはツボなんだろう。腹立つくらい顔緩んでるし。
『俺で、いいのか?もっと将来のある若い子とか、きみは子ども好きだし……引く手あまたなのに、俺なんて…』
『あんた以外いらん』
バッサリ切り捨てた、うわ、この人こんなカッコいいんや。
『子どもは好きやけど、信治さんも面倒見ええから手かかるん好きやろ?やから要らん。恋人が出来たら離婚するんやったやろ?それでしたやん。奥さんよりも添い遂げたい人が出来たってことやろ?それが俺なんやろ!俺も一緒や?離婚するまでずっと待っとってん、それ今更手放さんわ』
撤回する。この人想像上のガキに嫉妬するヤバい人で、
相当重たい愛の人だ。
でも部長はときめいてるっぽい。どこに?全然分からん。
『…こちらこそよろしくお願いします』
『よっしゃ、聞いてた涼?』
「あ、はい」
『おっし、じゃあ今日はありがとうな!また何かあればよろしく!』
言いたいことだけ行ってホストが退出した。
あ、部長から連絡入ってる後で確認しようっと。
にしても、先輩公開プロポーズってなかなかやるなぁ。
男だし、部長だし。なんで証人俺だったんだろう。
部下だから?俺なら偏見を持たないと思ったのだろうか。
離婚もまあまあのニュースだった。
てことは今、先輩と部長同棲してるのか?
あの感じベッド一緒だろうな……これ以上考えるのはやめておこう、鳥肌立ってきた。
何はともあれ、お幸せに。
『ハッピーエンド』
作者の自我コーナー
実はこちらもいつもの二人原型留めてないパロ。
必ず登場人物誰か一人は関西弁にしたい病。
ハッピーエンド至上主義者なので、お題にされると逆に難しかったです。割と難産。
あれ?でも本人たち幸せそうならいっか!って話。
ちなみにメリバはハッピーエンド派です。
その茶色い瞳に見つめられると、どうすればいいか分からなくなる。あんたと俺の視線は交わらないのが普通で、あんたの瞳の中に俺がいるところなんて、もう20年は見ていないのではないだろうか。なぜならあんたは照れ屋だから、俺が見ていない時はじいっと俺を見る癖に、一度俺が目線を向けると逸らしてしまう。
あまり俺たちのことを知らない世間様からは不仲だなんて取り沙汰されたが、これが俺たちの普通なのだ。寧ろ、ただでさえ照れ屋なあんたが特に俺に対して大袈裟に顔を赤くするのは気分がいい。一瞬視線がかち合っただけなのに、バッて逸らしたり、その癖人の一挙手一投足独り言をよく見ている。
俺のことを意識しすぎでは?目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。あんたの場合は目線が物言ってるけど。
ところが最近目が合うようになってきた。普通なら目が合うことを喜ぶのだろうが、俺は心が冷えたような気がした。
ーーもう俺では照れなくなくなってしまったのだろうか。あんたの特別にいると思っていたのは俺だけだった?もうドキドキしない?俺のことなんてどうでもよくなっちゃった?
そんなしみったれた考えが湧き出してくる。
俺にとってもあんたは特別だったのかもしれない。
「最近はお前の方が目逸らすな」
「あんたに見られるの落ち着かんねん」
「お前でも照れることあんねんな」
「それぐらいするわ…なんやと思ってんねん……」
「俺の目見てや、なあ」
ヒヤリとした手が頬に当てられる。
なんのスイッチ入ったんだろうかこの人。
大人しくそのまま目の前の人物に目線を合わせる。
にらめっこでもするつもりか?
従ったというのに何も無い無言の時間が流れる。
何がしたいねん。ただ時間を浪費されたことに舌打ちした。
「8秒、」
「はぁ?」
「8秒目逸らさへんかったら好きやねんて相手のこと」
「しょーもな、そんなんインターネットの眉唾もんやろ。第一俺の目ぇ見ぃ言うたんはそっちやんか」
「お前はな」
綺麗な顔がニヒルに笑う。面倒くさい、まどろっこしい、
いつも汲み取ってくれると思ったら大間違いやぞ。
「俺も8秒目逸らさんかった。わからん?」
「……わからん……やってそんなん、ずるいわ」
「俺が狡いくらい知ってたやろ」
「あんた、最近目合うやん」
「照れてたらいつまでも変わらんからな」
「俺に飽きたんかって……」
「お前には一生飽きひんよ。不安にさせてごめん」
親指が目の縁を拭う。
自分の意志に反して零れるねん、もう歳やなぁ。
「俺アホやな、早くお前の目見れるようになればよかった。
俺の事見てるヒナこんなに可愛いのに」
「そもそも意識しすぎて目見られへんようになったんがアホやねん。避けよって……小学生か!」
「いやお前このくりくりきゅるきゅるした目に耐えられると思ってるんか!?お前この目に見つめられてないから言えんねんそんなこと!ほんま今の今までよお手出さんかったわ!」
「手出すって……嘘やん」
信じられない。逆ギレ同然でとんでもないことを言いやがる。
この人めっちゃ俺のこと好きやん。まどろっこしいことしてへんと俺も素直になればよかった。
「……出してもええよ」
「えっ、いやそれは、アカンやろ……」
「ヨコ!」
一喝して黙らせる。
自分の言うことに従ってるだけやと思ってるやろ、あんた。
あんたの中の俺はいつもあんたに従順で何でもする。
そんな訳が無い。
あんたは知らんだけ、あれはただの利害の一致。
顔を両手で掴んで額同士がくっつくまでの距離に寄せる。
ヨコの瞳を介して俺の瞳の中にいるヨコと目が合う。
こんなに近いとここまでくっきり見えるものなのだな。
「確かに俺の目めっちゃくりくりしてんな」
「人の目ぇ鏡代わりにすんなよ」
「でもあんたの目の方が好きやわ」
柔らかい唇の方が好きやけど。チュッといつもあんたがするように音を立てて唇を離す。
「こいつの反対、わからん?笑」
「……そんなに煽られるともう手を出すしかないんですけど」
「うはは」
「こんなキスじゃ足りひんけどかまへん?」
隣に座ろうとしたら膝に乗せられて、視線が絡む。
すらっとした指が俺の髪を撫でるように梳いた。
ちょっと俺達にしては甘ったるくてくすぐったい。
おそらくあんたも恥ずかしいやろ?らしくなくて。
少し赤くなった耳元に手を当ててかまへんよと囁いた。
『見つめられると』どうすればいい?
『見つめられたら』キスすればいい!
作者の自我コーナー
いつもの。やっぱり関西弁が書きたいだけ。
照れ屋君より珍しく照れ屋なきゅるきゅるちゃんの話。
でも結局いつも通り。可愛いは強い。
ときどきこうやって照れ屋が逆転していてほしい。
最近二人で目を合わせてること多くないですか?