『優しくされると余計に辛い
でも冷たくされるの望んでないよ』
パラサイト/DECO*27
優しくされると勘違いしてしまうの。
未練タラタラで、ばかみたい。
葛藤が渦巻いてぐるぐるしてる。
アタシは、もう諦めたんでしょう?
好きじゃないんでしょう?
彼には、あの子がいるんでしょう?
なら、もうやめて。
アタシに構わないで。
アタシに優しくしないで。
好きになっちゃうから。
いや、違う。
好きの気持ちを隠せなくなる。
未だにアタシは貴方が好きなの。
こんなにドロドロした感情を持ち合わせてる女にさえ優しくするだなんて、ばかなおとこ。
貴方も罪なヒトね。
でも、アタシは貴方のそんなところに惹かれたの。
きっと、アタシに優しくされたくないんじゃないの。
アタシ以外に、優しさを向けて欲しくないの。
ほんと、どこまでいっても…自己中ね、アタシ。
でも、それでも好きと言えるのなら…
それでも、“好き”を願えるのならば…
どうかこの思い、貴方の優しさに免じて受け取って頂戴ね。
それは、何気ないやり取りがきっかけ。
それは、ただの自分の気分。
広瀬はやっとの思いで帰路につく。
ぼすんとベッドに倒れ込む。
今日は死んだように寝てやろう。そう決心した時ブーっと己のスマホの通知が鳴る。
何用だ。どうでもいい要件だったら速攻ブロックしてやろうと、めちゃくちゃ理不尽なことを考えるくらい広瀬は疲労していた。
だが、その考えは吹っ飛ぶことになる。
「…!海奈ちゃん」
なんと、可愛い可愛い後輩……兼恋人。そんな彼女からの通知なんて見ないなんて選択肢は無い。
「…………?」
だが、メッセージを見ようとするも、トーク画面にはメッセージはない。かわりにひとつの“不在着信”
どうしたのかな。オレ、気づかなかったけど……なにか急用かな。そんなこと考えたら新着メッセージ。
『間違えました』
間違えた?なんだ、そんなもんか。
だけど、広瀬の妄想ワールドが開拓される。
もし海奈が、自分に会いたかったけど忙しいかもしれないと躊躇い結局勢いで掛けてしまったが我に返り誤タップしたことにしたとするならばそれはそれは愛おしいなと。
事実、広瀬の妄想ワールドは間違っていなかった。海奈は間違いなんかじゃなく、故意に掛けたが躊躇いが勝ち誤魔化したのだ。
そう考えるととても胸の高鳴りが押えきれない。上がる口角を隠すように口を抑える。
「……おや、もうどこかへ行くのですか?」
先程帰ってきたばかりだというのに。すれ違った兄に聞かれたが小さく頷いてその場を立つ。
「あー……会いてぇ……」
真っ赤になった顔を隠すため、深く深く帽子をかぶりながら広瀬は海奈の元へ向かった。
…キミは、オレの双子の兄に恋をした。
そして、オレの双子の兄と付き合った。
嬉しそうで、楽しそうで、幸せそうだった。
花畑で嬉しそうに「好きです」「ええ、僕も好きです。」なんてさ。…ロマンチックだな。
オレは、キミも、兄も大好きだから…別に、恨んではない。
だけど、なんでだろうな。大好きと大好きがくっついたら素直に大好きだって言えなくなるの?
自分の黒い燻りに蓋をして、仮面を被って笑顔で濁す。
この感情に嘘は無いはず。オレは、2人とも大好きなの。羨ましくなんかない。
だけど、でも…なんで、オレじゃないんだろう。
ううん、それはキミがオレと兄をちゃんと区別してくれてるんだよ。顔だけで判断してない。ちゃんと、理解ってくれてる。
幸せそうな兄の笑顔、幸せそうなキミの笑顔、オレはそれを遠目で眺めることしかできないんだよ。
「…え」
そんなとき
「なん、で」
兄が
「…は?」
死んだ。
理由は知らない。どうせ交通事故かなんかでしょ。兄のことだろうからキミを庇って轢かれたとか。そんなこと考えるほどオレは冷静だった。
片割れが亡くなった。それは悲しいことだ。なのに、自然と涙が出なかった。
「あ…ああ…」
自分を庇って死んだ兄を見たキミがこれでもかと涙を流し、ふらつく体で兄に駆け寄ろうとしてたから、ああ、辛いのはオレだけじゃないんだなって。オレは泣いちゃダメなんだなって。何も考えない、ただの義務感だった。
キミが目覚めたのは医務室。起きたのかなって、焦って見に行ったキミが目に映したオレ。
「ううっ、先輩…!先輩!」
抱きついて泣かれた。同時に、理解した。
キミは、安堵してる。
“僕”が生きていることに。
…そりゃそうだよね。錯乱してる中兄そっくりなオレが現れたら、兄だと勘違いしちゃってもしょうがないよね。
キミがオレを求めてる。大好きだったキミが、他でもないオレを求めてる…なんて都合のいい妄想してるけど違う。
キミが求めてるのはオレじゃなくて僕なんでしょ?
抱きつかれて、涙して…震えて安堵してるキミを抱きしめてあげたいけど、それはオレであったらダメなんだ。
キミがまだ兄をこの世に存在させるならば、オレは生きてはいけない。もし、ここでオレがオレとして接してしまえば、兄を殺してしまう。
だから、オレは、僕は…
「もう、大丈夫ですよ。」
慣れない敬語。やっぱり砕けた口調と堅苦しい敬語。ここでも兄との違いがはっきり浮かぶ。
生憎声も似てるので、バレることはないだろう。
いつか見た花畑。あの時は遠くで見てた景色なのに、今となっちゃ抱きつかれてる側。
「好きです」なんて笑顔で言われて、「オレも好き」なんて言えたらどれほど幸せだったのか。
「…ええ、僕もです。」
でもオレは、キミに幸せになってほしいから、蓋をする。
ねえ、████、オレ、ほんとは幸せになりたい。
好きって伝えたい、のに。
キミが見てる光の投影。この行動は、兄が消えてしまってどうしようもない諦めとか、妥協でできた…なんて、やけに大人ぶってる理由。
キミが好きなのは、僕であってオレではない。
だからオレは、僕になりきってキミを抱きしめる。
幸せなんて感じない。ぽっかり空いた穴。
これは、正しいのかな。
きっと、正しいんだろう。
これは、正しいのかな。
これは、正しいのかな?
キミについたやさしい嘘。真実を知ることはきっとないのだろう。
「酷いもんだよ。死んでからもオレを苦しめやがって」
きっと、これは正しくない。
「ねえ、████」
オレ、アンタが居なくなって寂しいんだ。ほんとは。
幼い頃からずっと一緒にいて、たまに喧嘩もして、だけどずっと大好きだった。
オレを殺して、僕になりきる。
だから今日もオレは、キミにも自分にも嘘をついて生きていく。
「オレ、今幸せだよ。」
でもオレ、アンタにだけは嘘つきたくないな。
瞳を閉じると思い浮かぶよね、数々の黒歴史。
特に小学生は酷かったものだ。今すぐ泡になって消えたい一心だよ。
だけど、私はどこまでも人の目を気にする臆病者。日々の行動を繰り返しては他人がどう思ってるか怯えている。
今更思い返してみればとんだ自己中だよ。私の近くにも自己中はいるが、私はそれと同じくらい自己中だ。仲の良い友達だからといい、イジりを言い訳にし無意識に傷つけた。
それに、どこまでいっても上から目線。自分はできないことを棚に上げ俯瞰した目で物事を見ることしか出来ないただの愚者。
努力もしてないのに、結果も残せてないのに、頭の良い人と張り合ってる愚かな人間。
嗤ってもいいんだよ?寧ろ、嗤ってくれ。…でも、優しい君は私を嗤わないのだろう、なら独りで嗤っているよ。
私は、笑いたいだけなんだけどな。
迷惑ばかりかけ、それに気づかず更に愚行を重ねる。他人を嫌うくせに他人から嫌われると涙する。とんだ自己中だ。自己中にも程がある。貶されて当然の人間だ。
私のただの懺悔。許して欲しいだなんて願わない。ただ、消えたい。嫌われたくないんだ、嫌われたくない。
孤独を脅えてる。私は独りになりたくない。ひとりぼっちはいやだ。
例え自分に非があったとてそれを他人のせいにし、無意識に傷から目を遠ざけている。
嫌われないだろうか、傷つけてないだろうか、他人からの目を気にしてビクビク怯えている。臆病者で小心者の私。
だけど、気づかれないように必死に、必死に、笑う。微笑う。嘲笑う。
だから今日も、弱い自分を消す一心で目を閉じる。
でも、目を閉じたとて過去は脳裏にちらつき離れない。
慰めて欲しい、大丈夫だよと言って欲しい、好意を伝えて欲しい、あの子の1番になりたい。
目、開けていいかな。もう、いいかな?
もういいよ、なんて、言って欲しかったな…。
※コの作品ハノンフぃくしょンでス
かの悪役、マレフィセントは云った。
「みな、よく聞け。
姫は確かに優雅に美しく成長し誰からも愛される。だが、16歳の誕生日の日没までに、姫は糸車の針で指を刺し、そして死ぬだろう!」
祝福と呪いは表裏一体。彼女の贈り物は祝福でもあり、呪いでもあった。結果、姫は運命の人と結婚し幸せに暮らしたとかどうとか。…くだらぬ。
皆言うだろう、己が招待されなかっただけでなんて酷いことを…!と。だが、考えてみてほしい。マレフィセントは確かに彼女に贈り物を授けたのだ。
彼女は、なにか間違ったことをしただろうか。
呪いは、ただの試練だ。
それを乗り越えた先に、幸福があるのだろう。
呪いではなく、ただのお呪い。彼女は、とても優しく、美しい悪の女王だったのだろう。
ただ、周りに咲く美しき薔薇に棘が多すぎただけのこと。茨と薔薇は一緒にしてはならぬものだな。