リチ

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…キミは、オレの双子の兄に恋をした。
そして、オレの双子の兄と付き合った。

嬉しそうで、楽しそうで、幸せそうだった。

花畑で嬉しそうに「好きです」「ええ、僕も好きです。」なんてさ。…ロマンチックだな。

オレは、キミも、兄も大好きだから…別に、恨んではない。

だけど、なんでだろうな。大好きと大好きがくっついたら素直に大好きだって言えなくなるの?

自分の黒い燻りに蓋をして、仮面を被って笑顔で濁す。

この感情に嘘は無いはず。オレは、2人とも大好きなの。羨ましくなんかない。

だけど、でも…なんで、オレじゃないんだろう。

ううん、それはキミがオレと兄をちゃんと区別してくれてるんだよ。顔だけで判断してない。ちゃんと、理解ってくれてる。

幸せそうな兄の笑顔、幸せそうなキミの笑顔、オレはそれを遠目で眺めることしかできないんだよ。



「…え」

そんなとき


「なん、で」

兄が

「…は?」


死んだ。









理由は知らない。どうせ交通事故かなんかでしょ。兄のことだろうからキミを庇って轢かれたとか。そんなこと考えるほどオレは冷静だった。

片割れが亡くなった。それは悲しいことだ。なのに、自然と涙が出なかった。

「あ…ああ…」

自分を庇って死んだ兄を見たキミがこれでもかと涙を流し、ふらつく体で兄に駆け寄ろうとしてたから、ああ、辛いのはオレだけじゃないんだなって。オレは泣いちゃダメなんだなって。何も考えない、ただの義務感だった。


キミが目覚めたのは医務室。起きたのかなって、焦って見に行ったキミが目に映したオレ。

「ううっ、先輩…!先輩!」

抱きついて泣かれた。同時に、理解した。

キミは、安堵してる。

“僕”が生きていることに。

…そりゃそうだよね。錯乱してる中兄そっくりなオレが現れたら、兄だと勘違いしちゃってもしょうがないよね。

キミがオレを求めてる。大好きだったキミが、他でもないオレを求めてる…なんて都合のいい妄想してるけど違う。

キミが求めてるのはオレじゃなくて僕なんでしょ?

抱きつかれて、涙して…震えて安堵してるキミを抱きしめてあげたいけど、それはオレであったらダメなんだ。

キミがまだ兄をこの世に存在させるならば、オレは生きてはいけない。もし、ここでオレがオレとして接してしまえば、兄を殺してしまう。

だから、オレは、僕は…

「もう、大丈夫ですよ。」

慣れない敬語。やっぱり砕けた口調と堅苦しい敬語。ここでも兄との違いがはっきり浮かぶ。
生憎声も似てるので、バレることはないだろう。


いつか見た花畑。あの時は遠くで見てた景色なのに、今となっちゃ抱きつかれてる側。

「好きです」なんて笑顔で言われて、「オレも好き」なんて言えたらどれほど幸せだったのか。

「…ええ、僕もです。」

でもオレは、キミに幸せになってほしいから、蓋をする。

ねえ、████、オレ、ほんとは幸せになりたい。

好きって伝えたい、のに。

キミが見てる光の投影。この行動は、兄が消えてしまってどうしようもない諦めとか、妥協でできた…なんて、やけに大人ぶってる理由。

キミが好きなのは、僕であってオレではない。
だからオレは、僕になりきってキミを抱きしめる。

幸せなんて感じない。ぽっかり空いた穴。

これは、正しいのかな。

きっと、正しいんだろう。

これは、正しいのかな。

これは、正しいのかな?


キミについたやさしい嘘。真実を知ることはきっとないのだろう。

「酷いもんだよ。死んでからもオレを苦しめやがって」

きっと、これは正しくない。

「ねえ、████」

オレ、アンタが居なくなって寂しいんだ。ほんとは。
幼い頃からずっと一緒にいて、たまに喧嘩もして、だけどずっと大好きだった。

オレを殺して、僕になりきる。

だから今日もオレは、キミにも自分にも嘘をついて生きていく。

「オレ、今幸せだよ。」

でもオレ、アンタにだけは嘘つきたくないな。

1/24/2025, 11:41:37 AM