〈言葉にできない〉
信仰は礼賛とちがって、言葉にする必要がない。
言葉にする。
つまり、形ない無窮の空想を、実在に変換する。
天に放しておけたものを、地に引きずり下ろす。
批判じゃありません。虚勢であるのです。
だって、この信仰。ないしわたしの煮えたぎる
感情のなかでは、それすらできそうもない。
自分の心臓のより、奥。うんと狭い核を突かれ、
衝かれ。ひとは、それを憑かれたようだと言う。
たしかに病的です。ときに押し黙り、ときには
ひたすら雄弁を装って衒学じみた話をする。
けれどね!それもこれも、光にあてられたせい。
ひとの知る神の名前と、あなたの名前は、
一文字たりとも合ってなんかいやしませんけど。
だからこそ、余計に言葉を失う。
わたしだけの神さま。わたしだけの信仰。
できないことを必要がないと言い換えて、祈る。
射抜かれたこひつじを、拾われますよう!
〈沈む夕日〉
沈んでしまうのが、きらいだったんです。
いやだと言えたんです。さみしい!とも。
でも、いまはそんなこと、言えなくなりました。
遊具も花畑も、わたしが佇むにはきゅうくつで。
こころに知識と理性がふたをして、あのころの
気持ちに鍵をかけてしまいました。
一日をただ、流すようになってしまいました。
でも、夢の入り口のような入相の色合いをみて、
思うんです。
うつくしいと。天の色相のコントラストが、
わたしたちに目がけて広がる。広がってゆく。
かなしみを抱いても、
よろこびを手放したわけじゃあ、ないのかしら。
一人の帰り道を、歩く、歩く。
伸びゆく影とおどる、これは、わたしのソワレ。
〈泣かないよ〉
声は上げない あなたに聞こえるかもだから
あなただけは やさしい夢に送りたいから
泣かないよ 泣いていない 泣いてなんかね
けども 空腹はみたされてるのにからっぽだ
喉もかわいていないのに 枯れゆく気持ちで
わたし死ぬのかな このまま 死ぬの?
生と死はおもてとうら
いずれも剥がせない命への情動で
死にたい気持ちのてっぺんに来たらば
あなたの崩れた相好が見下ろしたとこにある
太陽と月みたい ね
あなたの光で延命する 反射の虚構で生を踊る
明日も生きてみたいから おはようと言ってね
〈ひなまつり〉
桃の節句。女の子の幸福を、願うんだって。
でもわたし、しあわせと呼べるものの大半は、
あなたにあげるの!そう、決めてるんだよ。
今だって、変わってないの。
ひなあられの桃色のとこだけ、あなたの大きい
手のひらに乗せてあげた、あの日から。
だから、大人ぶるのはやめて、こっち向いて。
つやめく桃の花は、あなたに首ったけだもの。
〈遠くの街へ〉
歩く、歩く。
ある時は駆け足に、また、ある時はゆっくりと。
少しずつ、帰路に逆らって、夜道を行く。
帰ろう。いや、もう少し。あと、少し。
伸びきった影が月に惚れて、地面に揺らめく。
このまま行けば、どこへ辿り着くのだろう。
あるいは、どこに着けるのだろう。
どこになら、わたしの安寧はあるのだろう。
ひとしきり、馬鹿げたことを考えて、百八十度。
足跡で逆立てた道を均すように、帰路につく。
今度は月ではなく、仄めく人の灯りを目印に。
けれど、遠くの街なんかに、行けたらば。
わたしは愛する希望に、出逢えるのでしょうか。