シャノン

Open App
12/16/2024, 1:23:22 PM

【風邪】


「おい、大丈夫か?」
『うん。ただの風邪だから平気だよ、これくらい。』
「本当かよ。ほら、ここ座っとけ。」
『ごめん、ありがとう。』
「辛くなったら、ちゃんと言えよ。」
『うん…。』

(前にも、似たようなことあったな…。)


―――

「どうした、具合でも悪いのか?」
『…はい。』
「頑張るのはいいが、無理はするな。」
『はい…。すみません…。』
「辛けいなら、今日は帰るか?」
『いえ、少しだけ休めれば大丈夫です。』
「そうか?…辛くなったら、ちゃんと言うんだぞ。」
『はい…。』

―――


先輩との会話を思い出し、立ち上がる。
少しだけ立ち眩みはしたけど、少しだけ楽になった気がする。

「…大丈夫、なのか?」
『うん。お陰様で。』
「そうか。無理はするなよ。」
『ありがと。』

(やっぱり、先輩に似てる)

「なんだよ。」
『いや?なんかさ、先輩に似てるなって思って。』
「はぁ?俺が?」
『そう。何となくてだけどさ。だから、詳細は聞かないでね。』
「なんだそれ。そんな冗談が言えるくらいには元気なようだな。」
『冗談のつもりはないけどね。』
「…そういや、去年もこんなことあったよな。
お前がただの風邪だって言い張って、
結局熱出して『昔の話はいいの!』昔って、お前なぁ。」

呆れながらも、笑いかけてくれる。
先輩もそうだったけど、彼らのこういう、
何とも言えない"温かさ"が好きだったりする。
体調が悪いとなおのこと。
だから今日は、その"温もり"に甘えてしまう。

12/12/2024, 12:45:16 PM

【心と心】


"彼"は、何か勘違いしている気がする。
確証があるわけではないけれど、
そんな気がしてならない。

私の力量が足りなかっただけだから、
責任を感じる必要なんてないのに。
そう言っても"彼"は、"自分"を責めているようだった。


私が、いつも"彼"に、迷惑ばかりかけているからだ。


知り合って3年目に入り、
他愛もないことや自分のことも話すようになって、
"彼"がどんな考え方をする人かを知って、
その頼もしさと優しさに甘えていた。

けどそのせいで、また迷惑をかけてしまった。
私のせいで、"彼"は、"自分自身"を責めている。


「大丈夫だよ。きっと全部、元通りになるさ。」
『うん。…そうだよね。』

あんなに近くにいたはずの"彼"との心の距離が、
ひどく、遠くに感じる。

12/11/2024, 10:31:00 AM

【何でもないフリ】


最近になって、やっとわかったことがある。
俺は"あいつ"の嘘に気付けなかったんだ。
それも、付き合いの長い同級生に言われて知った。

全く、気が付かなかった。
"こいつ "が笑いながら大丈夫だと言うのなら
大丈夫なんだろうと、そう思っていた。


俺は、"あいつ"のことを、何もわかっていなかった。


知り合って3年目に入り、
他愛もないことや自分のことも話すようになって、
"あいつ"がどんな考え方をする奴なのか、
わかったような気になっていた。

けどそれは、俺の思い上がりだった。
結局、肝心な部分までは、わかっていなかった。


「…そういう訳だ。早く戻って来いよ。」
『あぁ。…そうだな。』

何でもないフリが上手い"あの馬鹿"を、
これ以上、独りにはさせられない。

12/9/2024, 11:13:47 AM

【手を繋いで】


始めての登校日。
小学1年生だから、本当に始めて学校に行く日。
同じ登校班のお姉さんが、手を繋ぎながら
歩幅を合わせて歩いてくれた。

生憎の雨模様寒かったけど、
暖かかったあの手は、今でも覚えている。

12/8/2024, 12:54:52 PM

【ありがとう、ごめんね】


『お疲れ。コレ、今朝配られた分だ。置いとくぞ。』
「うん、ごめん、ありがと。」

これは、あいつの口癖みたいなものだ。
"ありがとう"には必ず"ごめん"が付いている。

『あのな…。前から言ってるけど、何で謝るんだよ。』
「えー、何でって言われても…。」
『何も悪いことはしてないんだから、いちいち謝るなよ。』
「んー。でも、手間掛けさせてるわけだし…。」
『これくらい、どうってことねぇよ。』

こいつは真面目で義理堅いやつだが、
頭も固いし聞き分けが悪い。
それに加えて、性分がそうさせているのだろう。
"ごめん"の回数が減ることはなかった。

知り合って間もない頃は、感謝の言葉と共に告げられる
謝罪の言葉が腑に落ちなかったし、
正直なところ、気に食わないとさえ思っていた。
しかし慣れとは恐ろしいもので、今では
それも"あいつらしさ"の1つだと思うようになっていた。

『それにしても、珍しいな。お前が遅れて来るなんて。』
「あぁ〜、まぁ、ちょっと…ね。」
『なんだ、何かあったんだろ?』
「そう、なんだけど…。」
『…言いにくいことか?』
「うん、ごめん。」
『いや、いいんだ。
ただ、無理はするなよ。俺も、出来るだけ力になる。』
「…。ありがとう、…ごめんね。」

そう言って力なく笑うこいつに、違和感を覚えた。

(何かを隠しているんじゃないか…?)

そんな予感がしながらも、追求はしなかった。
こいつの口は良くも悪くも固い。
無理に問い詰めても、また適当にはぐらかされるだろう。

(全く話をしないわけではないんだ。
必要があれば、その時に話してくれるだろう。)

そう呑気に考えていた。
…今は、そのことを後悔して止まない。

Next