【ありがとう、ごめんね】
『お疲れ。コレ、今朝配られた分だ。置いとくぞ。』
「うん、ごめん、ありがと。」
これは、あいつの口癖みたいなものだ。
"ありがとう"には必ず"ごめん"が付いている。
『あのな…。前から言ってるけど、何で謝るんだよ。』
「えー、何でって言われても…。」
『何も悪いことはしてないんだから、いちいち謝るなよ。』
「んー。でも、手間掛けさせてるわけだし…。」
『これくらい、どうってことねぇよ。』
こいつは真面目で義理堅いやつだが、
頭も固いし聞き分けが悪い。
それに加えて、性分がそうさせているのだろう。
"ごめん"の回数が減ることはなかった。
知り合って間もない頃は、感謝の言葉と共に告げられる
謝罪の言葉が腑に落ちなかったし、
正直なところ、気に食わないとさえ思っていた。
しかし慣れとは恐ろしいもので、今では
それも"あいつらしさ"の1つだと思うようになっていた。
『それにしても、珍しいな。お前が遅れて来るなんて。』
「あぁ〜、まぁ、ちょっと…ね。」
『なんだ、何かあったんだろ?』
「そう、なんだけど…。」
『…言いにくいことか?』
「うん、ごめん。」
『いや、いいんだ。
ただ、無理はするなよ。俺も、出来るだけ力になる。』
「…。ありがとう、…ごめんね。」
そう言って力なく笑うこいつに、違和感を覚えた。
(何かを隠しているんじゃないか…?)
そんな予感がしながらも、追求はしなかった。
こいつの口は良くも悪くも固い。
無理に問い詰めても、また適当にはぐらかされるだろう。
(全く話をしないわけではないんだ。
必要があれば、その時に話してくれるだろう。)
そう呑気に考えていた。
…今は、そのことを後悔して止まない。
12/8/2024, 12:54:52 PM