#巡り会えたら
【創作BL】旭と日野3
間近から日野の視線がまっすぐ刺さる。あまりの視線の圧に、熱さまで感じるくらいだ。それでいて、旭の左手を握りしめたままの日野の手は、びっくりするくらい冷えきっていた。
「俺には、そんくらい聞く権利があるんやないか」
日野に告白されて、ああやっぱり彼は自分のことが好きだったのか、と。旭には腑に落ちるところがあった。
ふと視線があうと返してくれる笑顔や、さりげない気遣いや、嬉しそうに旭を呼ぶ声や……よほどの鈍感でない限り、気づかない方が無理があるくらいに好意を寄せられていた。そう旭は感じていたからこそ、それを失うことが怖くて日野に友だちでいようと告げた。
残酷にも、あの時の旭には、それができてしまった。
「ごめん……俺が悪かった」
告白の以後、日野は旭の友人として、実に誠実に接してくれていたというのに。
旭は、マネージャーの築山がわざわざ昼休みに日野を呼び出し、告白したことを知り、居ても立っても居られなくなった。
午後の授業は上の空のまま終わり、部活中も日野と築山の様子が気になって落ち着かない。
「やから、旭に謝って欲しいんやないって」
「そんなん、俺の気が済まん!」
ここで、今。ちゃんと謝って、けじめをつけてから、日野に気持ちを伝えたい。こんな機会は二度と巡ってこないかもしれない。
俺はあの時のことを後悔している、と旭が口にしかけたとき、急にまばゆいライトが二人を照らし、心臓に響くクラクションが鳴った。
(続く)
#奇跡をもう一度
【創作BL】旭と日野2
「なんで」
いつもの日野の、明るく朗らかな声とは大違いの、指先から冷えていくような声。旭は余計なことを訊いてしまったと後悔したがもう遅い。道の隅に自転車を放り出した日野が旭に詰め寄ってきた。ひったくるような勢いでハンドルを掴まれ、逃げ出すこともできない。
「なんで、旭が、いま、そんなことを気にするんや」
さらに一歩、距離を詰めた日野に壁際へと追い込まれた。さっきまでの夕日は、真上からやってきた夜に侵食され飲み込まれてしまった。旭より頭半分高い日野を間近で見上げると、ひそやかに星が瞬いている。
「なんでって……その、朋哉、が築山を」
「朋哉は女子校に彼女できたやろ。俺は、なんで旭が俺と築山のことを気にするんかってきいてるんぞ」
無理矢理ひっぱりだしてきた言い訳はあっという間に役立たずになった。
「き……気に、なるから」
「なんで」
月のまだ出てない薄暗がりの中、眉間にぎゅっとしわを寄せた日野は、強い口調とは裏腹に今にも泣きそうな顔をしている。
「お前が……旭が、友だちでおりたいって言ったんやろうが」
そう。夏のはじめ、旭は日野に言った。
部活後のロッカーで練習後の暑さだけでない熱気に顔を真っ赤にして「好きだ」と言ってくれた日野に対し、旭は確かにそう言ったのだ。
「ごめん」
「謝って欲しいわけやない。なんで、や。理由を、聞かせろ」
ハンドルを掴んでいた日野の手は、いつのまにか旭の左手を握っていた。
(続く)
#たそがれ
【創作BL 】旭と日野1
「こりゃ明日も晴れだな」
中学から通学に使っているのにちっとも油を注さないもんだから、日野のチャリはこぐたびにぎいぎいうるさい。
それなのにしっかり聞き取れる、芯のある日野の声が旭は好きだった。
「夕焼けスゲー」
「だな。真っ赤じゃん」
もうすぐ、また明日って別れる交差点だ。
また明日、朝練で。
そう言って別れ、また半日後にはそこで顔を合わせる。いつものことだ。
それなのに、旭の喉の奥で引っかかった言葉が「またあした」の五文字を言わせてくれない。
交差点で止まり、口を真一文字に結んだ旭の常にない様子に日野がいぶかり自転車を停めた。
いま、聞かなければ。きっと、このまま帰っても旭は眠れないまま夜を明かしてしまう。
じわ、と山の端に溶ける太陽の輪郭に目を焼かれ、涙が滲む。泣きたいわけじゃないのに。
「なあ、昼に築山に告られたん、どう答えた?」
なんとか口にしたものの、声が震えているのが旭自身にもわかった。途端にきゅっと寄った日野の眉間が、ちゃんと聞こえていたんだと教えてくれる。