夏海

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#奇跡をもう一度

【創作BL】旭と日野2
「なんで」
いつもの日野の、明るく朗らかな声とは大違いの、指先から冷えていくような声。旭は余計なことを訊いてしまったと後悔したがもう遅い。道の隅に自転車を放り出した日野が旭に詰め寄ってきた。ひったくるような勢いでハンドルを掴まれ、逃げ出すこともできない。
「なんで、旭が、いま、そんなことを気にするんや」
さらに一歩、距離を詰めた日野に壁際へと追い込まれた。さっきまでの夕日は、真上からやってきた夜に侵食され飲み込まれてしまった。旭より頭半分高い日野を間近で見上げると、ひそやかに星が瞬いている。
「なんでって……その、朋哉、が築山を」
「朋哉は女子校に彼女できたやろ。俺は、なんで旭が俺と築山のことを気にするんかってきいてるんぞ」
無理矢理ひっぱりだしてきた言い訳はあっという間に役立たずになった。
「き……気に、なるから」
「なんで」
月のまだ出てない薄暗がりの中、眉間にぎゅっとしわを寄せた日野は、強い口調とは裏腹に今にも泣きそうな顔をしている。
「お前が……旭が、友だちでおりたいって言ったんやろうが」
そう。夏のはじめ、旭は日野に言った。
部活後のロッカーで練習後の暑さだけでない熱気に顔を真っ赤にして「好きだ」と言ってくれた日野に対し、旭は確かにそう言ったのだ。
「ごめん」
「謝って欲しいわけやない。なんで、や。理由を、聞かせろ」
ハンドルを掴んでいた日野の手は、いつのまにか旭の左手を握っていた。


(続く)

10/2/2023, 2:05:00 PM