浜辺 渚

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3/24/2025, 4:00:06 PM

もう二度とこんな間違いはしまいと意気込んで、何回同じ間違えをしてきたのか。1度間違える、次は間違えないぞと息巻くも、同じ過ちを犯す。失敗を分析して、工夫を凝らしてもまた過ちを繰り返す。その後に残るのは、もう自分の力じゃどうにでもできないという無力感。しかし、いやらしいのがたまに上手くいくこともあって、その成功体験が完全なる諦念を持たせてくれない。無様にも間違い続ける。

3/23/2025, 4:28:59 PM

「お前、1番好きな天気は?」
「曇りかな」
「ほう。また地味なやつを選んだね。ちなみに、それはどうして?」
「僕に合っているからかな。晴れだとやかましすぎるし、雨だと切なすぎる。僕はそんなにドラマチックじゃない」
「「ドラマチック」か、、でも、曇りっていうのは何かつまらない感じがしないか?俺は朝の天気予報で曇りって言われて、毎回反応に困ってる。この天気で俺はどんな反応を期待されているのかってね」
「君の反応は知らないけど、曇りっていうのもなかなかに良い天気だと僕は思うよ。小説の冒頭で「その日は曇天の空だった」とあったら、何だかただならぬ事件の香りがするだろ?」
「確かに、言われてみればそうかもしれないな。そう考えれば、曇りって言うのは何かの暗示としての役割があるのかもな」
「多分ね。世のミステリー小説の大半は曇り空で始まるだろう」
「間違いないな」

3/22/2025, 4:00:26 PM

そこは東北の海沿いの村で、大きな2つの山の麓を覆うように広がっていた。10歳の吉郎は村1番の厄介者で、痴呆に惚けては、村の人に折檻を喰らっていた。
「こんな何もねえ村じゃあ、どうやったって楽しくないんだ。ちょっと盗みをしたり、落書きするぐらいは許されて然るべきじゃ」と吉郎は口を曲げて呟いた。
「吉ちゃんや。この村はすごく恵まれているんだよ。海と幸に山の幸に囲まれて、食料に困ることは無いし、過去に自然の災いが起きたこともない。吉ちゃんは何も無いって言うけどね、他の村と比べたら本の流通や芸者さんのお越しだって多いんだよ」と村の人が言った。
「そんなのちっとも面白くない!」そう言うと、吉郎は村のハズレにある自宅に帰っていった。
吉郎の両親は彼を村に産み残し、都会の方へと逃げてしまった。そこで、村の人たちが協力してここまで吉郎を育ててきた。

吉郎は家に帰ると、縁側に寝そべり、ぶつぶつと文句を言っていた。縁先にある夾竹桃が左右に揺れるのを目で追いつつ、その奥にある枝折り戸を視界に捉えていた。
「逃げよう」とふとそう思った。
「そうだ、ここに居て寿命を迎えるよりは、旅先で餓死した方がマシだ」
そう思えば、直ぐに枝折り戸から家を飛び出し、橋を渡り、山道を登っていった。何の計画もなく出てきたが、お腹がすけば山菜でも取ろうと考えていた。幸い、どの植物が食べれて、どれが食べられないのかの区別は出来ていた。
1時間ほど歩き続けると、でこぼこした尾根の細道に出た。眼下には霧にまぎれた村を一望することが出来た。もう、こんなところには帰ってこないと決心し、「バイバイ」と叫んだ。

3/21/2025, 3:22:10 PM

当時、僕は野鳥観察に熱心だった。直子とのデートでも、自然公園に行っては、よく一人で野鳥観察に夢中になっていた。

「鳥のどこがそんなにいいのかしら」
「鳥が良いと言うよりは、バードウオッチングという行為に惹かれているんだよ。手に届かないものを必死に追いかけ回すって所が気に入っている」
「そう?なんでもいいんだけど、今はデートの最中で、私はあなたの彼女であるということは忘れないでね」
「もちろん」

その日の暮れには、近くの川に行き、山に沈む太陽を2人で眺めていた。紙芝居の夕暮れのように、それはハッキリとした輪郭を持っていた。陽光を浴びた彼女の顔はそこはかとない侘しさを秘めていた。

3/20/2025, 1:44:47 PM

君と手を繋いだ事を思い出した。君の干からびたフランスパンのような感触の手は、当時の私にとっては何よりも心強かった。決して、裕福とは言えない暮らしだったけど、その欠落はむしろ僕たちを十分に満たしてくれていた。それは、あえて白黒の下書きで描き切るのを辞めた現代アートのようだった。

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