今日がある意味での終着点だ。僕はここまで来たし、時間だって後を追ってきた。別にそれは大事なことでは無いのだけれど、それでも駆け馬に鞭で何とかやってきたのだ。ここが、転換点。明日からは、また違う景色が広がっているだろう。それは壮大だし、同時に具体的な1日になる。また、一からやっていこう。僕ならそれが出来るはずだ。
ベランダを出ると、夜風が急ぎ足で僕の肌をかけていった。今夜はしぶんぎ座流星群の極大日であり、さらにニュースでは1時間に20個ほど観測できる好条件だと言っていた。こんな真冬に1時間もベランダに居る訳にはいかないが、10分ほどは耐えてみようと思った。確率では3個は見えるはずだ。
5分ほど経っても、流れ星は見えず、ベランダから見える範囲で空の見る範囲を適宜変えて見ていた。そして、もう1分待っていると、目の端で光の尾を捉えることが出来た。瞬時に目線を向けた時にはもう光ってはいなかったが、それは紛れもない流星群だった。
その流星群を見た後の数分間は呆然としていた。風が興奮した頭を撫で、乾いた目は寒さで赤くなっていた。その時僕は、確かに自然に含まれた存在だった。
願いが1つ叶うならば、僕に情動を抑え込む自制心と衝動と理性を判別する知恵をお授け下さい。私はもう自分がするべきことと体が欲することへの乖離に耐えられそうにないし、今の自分が衝動によっているのか、理性によっているのかも分からないのです。人が他の動物と異なる点は理性だと言いますが、私にはいまいちそこが欠けてしまっていて、時々自分が何によって突き動かされているのか分からないのです。
之助は門を叩いて泣き叫んだ。
「火が家のすぐ側まで来ちまっている。もうおしまいだ、みんな死んじまうんだ」
すると、どすどすと家の中から足音が聞こえ、女将が顔を出した。
「夜遅くにうるさいですね、火なんてどこにもないでしょう。構ってもらいたいのなら、明日の昼頃にいらして下さい」
そう口早に言うと、ドアをぴしゃりと閉めた。
之助にとって、最後の頼みの綱が切り落とされた瞬間だった。火はもう真後ろでめらめらと燃えている。
嗚呼、俺はもうじき逝くだろう。なんてたって、誰も俺を信じてくれないんだ。女将ならと思ったが、結局あいつも俺の事を嘘つきだと思っていやがる。仰いで天に愧じずの素行に、誰も彼もが変な言い草をつけるんだ。俺はいつだって、自分が正しいと思うことをしていただけなのによ。ああ、背中が熱いな、くそ。結局、何もねえ人生だったな。何かある人生に一体何があるのかすら分からねえ程によ。嗚呼、神さま仏さま、来世があるとするなら、私は鳥に生まれとうございます。きっと空はもっと涼しいに違いない。
私には誰にも教えていない秘密の場所がある。それは、私の要塞であり、王国なのである。もちろん、そこには堅牢な城壁があり、高い鉄の門もある。門の横には詰所があり、そこにはスキーマが退屈そうに見張っている。建物はなく、巨大な学校のグラウンドのように城壁まで水平に見渡すことが出来る。
私は何か辛いことがあったらそこに逃げ込むようにしている。その門の前に行き、スキーマに取り合って、私の不変な部分と蠢いている部分を分けてもらう。それが終われば、軽い体で門をくぐり、あとはその時が来るまでグラウンドに寝そべる。色々な雲の形や色を観察したり、夜には星を見たりして過ごす。そのうち、スキーマから「その時」が知らされる。その報告が来たら、その場所を離れて、元の所へ帰るって次第さ。
どのようにしてそこに辿り着いたかは分からないけど、とにかくそこを見つけてからは私は希望を持てるようになった。きっと大丈夫だ、大丈夫じゃなくても私には誰も知らない秘密の場所があるってね。