子どものままで
沙代は両親からある言葉を言われ続けた。
「沙代、貴方は子どものままでいなさい。それが貴方の幸せよ」
「ふざけんじゃねえ! あたしを子ども扱いすんな、クソ野郎共。勝手に幸せ語ってんじゃあねえぞ」
いつもは丁寧に返事をする沙代が悪態をついた。
「沙代、貴方……」
「黙れ、黙らなきゃシャーマンプレスしてやる。ああ、てか、するか」
「何を言ってるんだ? そんな技何処で……?」
沙代はじりじりと母親の方へと寄る。
「特にてめえだ、おふくろ? お前の持論には反吐が出そうだ。今日まで耐えてやったんだ、お前なんざたった数分の拷問だ。耐えろよ?」
「沙代、貴方なんでそんな野蛮な芸を……」
「知らなかったのか、おふくろさんよぉ? 私が塾代だと言ってた月謝代」
沙代はついに技をかけた。
「あれはプロレスに通うための金だ。師匠には許可をもらったぜ」
瞬間、雄叫びが部屋に響き渡った。
愛を叫ぶ
沙奈恵は強い風に吹かれながら零にいい放った。
「愛してるぞ、零!」
「愛してたぜ、沙奈恵」
モンシロチョウ
加那は幼い頃、蝶が好きだった。特にモンシロチョウが。
彼女は美しいものを壊すのが好きだった。形をもって美の定義をされていたものたちが崩壊する瞬間に感じる背徳感、それに連なる背中がぞくっと震える高揚感に魅せられた。
たが、物を壊すことは容易にできない。加那はまだ子どもで、誰かの庇護がなくては生きていけない。頻繁に事を起こせば彼女に疑いの目がかけられる。
加那にとって蝶は都合がよかった。
自然のもので、壊しても怪しまれなくて、代わりはいくらでもある美しいもの。
踏みつける、羽をもぐ、クモの巣につける、ピンで刺す、思いつくことはなんでもした。
周りは子ども故の残酷な行為だと思い、気にすることはなかった。
大人になった加那はダイヤモンドとオニキスが混ざったブローチを見ている。
まるでモンシロチョウを題材にした蝶だった。
加那は莞爾の笑みを浮かべながら、ブローチをテーブルへと邪険に置く。
そして手に持っていた金槌を、モンシロチョウに叩きつけた。
忘れられない、いつまでも
有栖は、恨みがたまっていた。
「許さないわよ……私が楽しみにとっておいた一蘭のカップ麺を食べたことを……。最低一月は忘れないわよ。いいえ、忘れてなるものですか! いつまでも忘れないから!」
一年前
黎は一年前、目を覚ます気力もなかった。
このまま、微睡みの中で永遠に眠っていたかった。
だが、その願いは叶わずに黎は今、新緑の中にいる。誰かが彼女を起こしたのか? それとも彼女自らが起きたのか?
周りの人間は口々に噂を立てるだろう。
黎の一年に何があったのかは、楠の下で。